2013 Fiscal Year Research-status Report
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24653018
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
土井 政和 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30188841)
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Keywords | 刑事司法 / 福祉 / 出所者就労支援 / 地域生活定着支援 |
Research Abstract |
本研究では、刑事司法制度における犯罪防止に向けた福祉的援助を「福祉連携型刑事司法」(仮称)という観点から再構成し、できる限り刑罰に依存しないで犯罪を防止する社会の実現に向けて刑事司法の在り方を根本的に再検討することを目的とする。その方法として、平成25年度は、以下の調査を行うことにしていた。 国内調査に関しては、以下の調査を行う。 ①地域生活定着支援センターの活動は地域的差異があるため、とくに特徴のあるセンターを選定し、訪問調査を行うことにより、相互の比較検討を行い、多様なあり方がありうることを明らかにしようとした。この点では、長崎県地域生活定着支援センター及び秋田県地域生活定着支援センターのヒアリングを実施した。②出所者就労支援事業者機構の活動についても同様の状況にあることから、福岡以外の地域での活動状況について調査を行うことにしていたが、大阪の状況について調査を行った。 外国調査に関しては、イタリアの矯正処分監督裁判所及び施設外刑執行処遇支援事務所の調査を行うことにしていた。判決と刑の執行との間に位置し、判決裁判所が言い渡した刑の具体的な執行方法を検討する矯正処分監督裁判所の活動が興味深かったからである。しかし、これについては他の研究者によって報告がなされたことと、オーストラリアの知的障害者らに対する特別手続に関心が向いたことから、次年度はオーストラリアのビクトリア州の調査を行うことにした。また、韓国の保護観察付執行猶予について文献による検討を行った。 理論的研究としては、引き続き、刑事司法と福祉との連携に関する文献の収集整理を行うとともに、その分析を行った。その成果の一部は、犯罪社会学会や国立のぞみの園で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画のうち、実証的研究については、「刑事施設等への社会福祉士・精神保健福祉士の配置、福祉事務所やハローワークと刑務所及び保護観察所との連携、出所者就労支援事業、地域生活定着支援センター設置、社会福祉法人による事業(知的障害者、高齢者)、全国就労支援事業者機構の設立など諸施策の現状を調査し、その課題を明らかにする」ことにしていたが、すでに昨年度、定着支援センター(大阪、滋賀、長崎)、社会福祉法人南高愛隣会、のぞみの園などの施設、並びに、福岡県就労支援事業者機構、出所者就労支援会社(ヒューマンハーバー)、福岡刑務所などを訪問し、ヒアリングを行った。これに加えて、長崎県地域生活定着支援センター(再訪)及び秋田県地域生活定着支援センターのヒアリングを実施し、また大阪の就労支援事業について調査を行った。 比較法的研究としては、昨年度にスウェーデンの以下の施設を訪問した。Cris(クリス)、Basta(バスタ)、Crami(クラミ)、サムエル社、ストックホルム保護観察所、コールモーデン開放刑務所、ハル重警備刑務所などである。その成果については、今年度「龍谷法学」に公表した。 理論的研究については、刑事司法と福祉の関係について、新しい動向を踏まえてこれまでの自説を理論的に再構成し、その一部は、犯罪社会学会のシンポジウムで報告し、また、国立のぞみの園で講演を行った。 以上により、研究計画は、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
刑事司法と福祉との連携に関して独自の制度を持つオーストラリアと日本の現状を比較検討する。ビクトリア州では、「知的障がいのある犯罪行為者の再犯の可能性を低減すると考えられるサービスを提示することにより、裁判所の量刑決定を補佐する」ことを目的としたJustice Plan を実施しており、州政府障害サービス部門がこれを担当している。当部門は、障害に特化した調査を行い、更生支援計画を作成し、本人の同意に基づきサービスを提供している。他方、保護観察所は、一般的な対象者に対して判決前調査を行い、保護観察における指導監督・補導援護を行い、遵守事項に違反した場合に裁判所に通告する業務を担当している。また、民間機関による特化型支援サービスも行われている。このビクトリア州の制度と日本のそれとの類似点と相違点を明らかにするためにオーストラリアのメルボルンを訪問し、ヒアリングを実施したい。 そのうえで、日本で進んでいる刑事司法と福祉との連携の在り方を国際的な視点で見たとき、どのような特徴があり、また、課題があるのかを明らかにして、改革提言を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
外国調査として、イタリアを訪問し、刑の個別化に関する制度及び実態調査を行う予定であったところ、当該制度等については、すでに他の研究者により一定の報告及び紹介がなされたことと、研究関心が、イタリアからオーストラリアの刑事司法と福祉の連携に関する独自の制度と運用の在り方に向いたことから、イタリアへの調査を実施しなかった。そのため、イタリアへの旅費として計上していた予算を使用しなかった。 オーストラリアのビクトリア州では、「知的障がいのある犯罪行為者の再犯の可能性を低減すると考えられるサービスを提示することにより、裁判所の量刑決定を補佐する」ことを目的としたJustice Plan を実施しており、州政府障害サービス部門がこれを担当している。当部門は、障害に特化した調査を行い、更生支援計画を作成し、本人の同意に基づきサービスを提供している。他方、保護観察所は、一般的な対象者に対して判決前調査を行い、保護観察における指導監督・補導援護を行い、遵守事項に違反した場合に裁判所に通告する業務を担当している。また、民間機関による特化型支援サービスも行われている。このビクトリア州の制度と日本のそれとの類似点と相違点を明らかにするため、メルボルンに1カ月程度滞在し、調査を行いたい。
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Research Products
(2 results)