2014 Fiscal Year Annual Research Report
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24653020
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
香川 崇 富山大学, 経済学部, 教授 (80345553)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 取得時効 / 消滅時効 / 基本権 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年は、前年度検討した欧州人権裁判所2007年8月30日判決(以下、「2007年判決」)以降におけるヨーロッパの動向と2007年判決の影響について検討した。 2007年判決は、イギリスの取得時効(反対占有)制度と欧州人権条約第1議定書第1条との関係が問題とされた事案であった。同判決の法廷意見は、時効の目的に一般的利益が存在し、かつ、一般的利益の要求と個人の利益に公正な均衡があるとした。他方、同判決の反対意見は、イギリスの取得時効制度が、時効で権利を失う者を保護するための適正手続を用意しておらず、公正な均衡を欠いているとした。 2007年判決以降、フランスでも取得時効の憲法適合性が問題とされた。しかし、破毀院第三民事部2011年7月17日判決等は、憲法院への移送を認めなかった。 これに対して、欧州人権裁判所2013年1月29日判決(以下、「2013年判決」)は、ギリシャ・ナショナル銀行に対する預金債権が口座開設から20年で時効消滅し、当該銀行に寄託された金銭が国庫に帰属する旨を定めた法律が、欧州人権条約第1議定書第1条に定められた権利を侵害しているとした。2013年判決は、当該法律の目的が正当であるとする。しかし、2013年判決は、2007年判決の反対意見と同様に、公正な均衡の審査につき、権利者を保護する適正手続に着目する。すなわち、国家は、銀行が債権者に時効完成時期の接近という情報を提供して時効を中断する機会を与えるよう要請する義務を負っているという。そして、2013年判決は、そのような情報がない以上、当該銀行預金の債権者が過度で不均衡な負担を課せられていたとする。 2013年判決は、2007年判決と異なって消滅時効に関するものであるが、2007年判決の反対意見の指摘していた点、すなわち、時効における適正手続の必要性を確認させるという意味で重要な判例であるといえよう。
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