2012 Fiscal Year Research-status Report
海事社会の共同体概念の醸成に関する一考察―環境保護のための地域協力を中心として
Project/Area Number |
24653041
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
岡田 順子 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 准教授 (00213942)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 海事社会 / 共同体概念 / 環境保護 |
Research Abstract |
本研究では、海事社会において環境を保全することを目的とした地域協力であるMOU(Memorandum of Understanding)の検討を通し、海事社会の共同体概念を検討することを目的としている。MOUが適用する国際基準はIMO、ILOなどの国際機関で締結される条約等の規定である。そこで、今年度は、IMOで議論されている以下の三つの課題、及びILOでのSTCW条約改正に関して検討を行った。 IMOでは、シップリサイクル(船舶の解轍)、バラスト水、温室効果ガスをずれも海事社会が取り組むべき重要な環境問題としている。船舶の解轍に対しては環境保護の観点から有害物質の回収を有効に行うことが不可欠であるにもかかわらず、解轍費用の削減を理由に施設の整備されていない途上国で多く行われてきた。そのため有害物質の流失による環境汚染だけでなく、労働者の健康被害も起こっているなど問題とされてきた分野である。バラスト水は、生態系の破壊、大量発生した外来種による被害、大腸菌などの増殖による健康被害など多くの問題を起こしてきた。そのため、バラスト水処理装置の搭載、バラスト水のサンプリングなどが検討されてきた。処理装置については各国の意見の一致をみているが、サンプリングなどについては船舶の運航費用の増大を理由に意見が分かれている。船舶が排出する温室効果ガスについては、京都議定書の枠外におかれ、IMOの議論の対象とされてきた。しかし、京都議定書など持続可能な開発・発展に伴う議論の中で途上国の主張する「共通だか差異のある責任」の問題はIMOでも同様に争点となっており、具体的にどのように規定されるべきか、などについてはなお検討中の課題となっている。 ILOでは、STCW条約の改正が行われ、船員資格の要件が強化されており、それは来年度の課題であるMOUでのポートステートコントロールをみる上で重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画では、国際共同体概念の検討を行うために共同体の中での規範意識の形成を、IMOの海洋環境保護をめぐる議論を検討することによって考察することを目的としていた。そのため、IMOで議論されている海洋環境保護の問題の中から特に重要な三つ、シップリサイクル条約、バラスト水管理条約、船舶からの温室効果ガス削減対策、に関する議論の検討を行った。これらの検討を通じ、海洋環境保護に関する一定の規範の策定がIMOで形成されているものの、その規範を十分でないとする国はさらに基準を強化するなどの事例が見られる。こうした基準の強化は、先進国で行われており、それは、すなわち来年度の研究課題であるMOUでのポートステートコントロールの検討課題とするべきものである。したがって、本年度の検討を通じ、海事社会での一定のコンセンサス形成をみることができたこと、しかしながら、さらに基準を強化する動きがMOUのポートステートコントロールに影響を与えており、来年度の研究課題とすべきものであることが明らかになった点で評価できる。 また今年度はILOでのSTCW条約の改正の内容について検討を行ったが、条約改正がMOUのポートステートコントロールにどのように影響するかについては来年度の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に検討したIMOでの議論をふまえ、MOU及びアメリカの海洋環境保護の検討を行う。特にMOU体制が各地域でどのように機能しているか、機能するにあたって各地域に共同体概念が醸成されているのか、海事社会全体をみた時にMOU体制の機能はどのようなものかを書籍、及び文献複写による資料収集によって行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国際社会、海事社会の共同体概念を検討するため、及びMOU体制に関する書籍代、10万円、文献複写費、2万円、コピーカード1万円、 MOUに関してはweb上の資料を収集することも重要であることからそのための消耗品費5万円、 収集した資料の整理のための人件費5万円 研究の成果の印刷に7万円 以上、30万円
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