2012 Fiscal Year Research-status Report
幼稚産業保護論の再評価:リアルオプション・アプローチによる理論・実証モデルの構築
Project/Area Number |
24653070
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
小井川 広志 関西大学, 商学部, 教授 (50247615)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 幼稚産業保護論 / キャッチアップ工業化 / リアルオプション / マレーシア / パーム油産業 |
Research Abstract |
本年度の研究プロジェクトは、理論研究および現地調査を敢行した。理論研究は、幼稚産業保護論の学説史的検討に始まり、これをガーシェンクロン、アブラモビッツ、アムスデンにさかのぼり、いわゆるキャッチアップ工業化論の脈絡の中でその現代的含意を検討した。この検討の中でいくつかの変数が浮かび上がる。例えば、国家の役割、技術的バックログの大きさ、社会的能力、技術パラダイムの変化、などである。支配的技術トレンドの変革期が、後発国にとっての「発展の機会の窓」となり、新技術、新制度を導入する上で後発国は身軽で素早いという優位性を持つのだが、社会的受容能力に欠ける場合、これが十分でないという点が多くの文献で強調されていることが明らかになった。このような既存研究の視点に対する本研究の貢献は、社会的受容能力の構築自体が外的影響を受けて「リアルオプション的」に進むものであって、その現代的意義を検証することである。 その検証のケーススタディーとして、平成24年度はマレーシア、パーム油産業の発展に焦点を当てた。この産業は、戦後ほぼゼロの初期条件から順調に発展を遂げ、現在では電気・電子産業に次いで第二の輸出額を誇っている。当初外資依存で進んだパーム油産業の発展であるが、パーム油の旺盛な国際需要を受けて地場企業の積極的な投資が進み、マレーシアはパーム油生産の世界的中心地として躍進してきた。かかる「様子見的」な発展パターンが、本研究の主題であるリアルオプション的発展と整合的であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幼稚産業保護論の学説史的検討はほぼ完了し、これを現代的キャッチアップ工業化論との対比の中で考察できた点は独創的であると考える。また、マレーシア・パーム油産業をそのケーススタディとして焦点を当て、これにリアルオプション的解釈を加えてその発展パターンをほぼ整合的に説明できた点は、成功したと言っても良い。 やや不十分な点は、リアルオプションの数理モデルの最近の成果をフォローすることに十分な時間を作れず、そのために、ケーススタディを数理モデルとして展開することが十分に進んでいない。2年目にはこの領域に力点を置いて研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年は、既存研究の文献サーベイと現地調査の分野で研究の進展がみられた。今年度以降は、これに数理理論モデルの構築を併せて研究活動を進めていきたい。 分析対象国は、これまでと同様にマレーシアを念頭に置く。この国は、ここで言うリアルオプション的(様子見、漸進的)な産業政策を続けてきた経緯があり、ケーススタディ国として取り上げるのに最適と考えるからである。国際市場における経済環境をにらみながら漸進的に産業開発を進めてきたセクター(電気・電子、パーム油など)と、経済合理性よりは国家目的の追求の元に産業育成を進めてきたセクター(自動車、鉄鋼など)との発展経路の比較を行う。前者のパフォーマンスが後者よりも優れていれば、リアルオプション的産業育成策の妥当性が間接的に証明されたことになる。 初年度に引き続き、Oxford大学International Development Centreとの研究交流は継続させる。研究状況の進展を報告し、今後の研究の方向性について議論を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文献研究のための図書資料費(国立国会図書館、アジア経済研究所などへの資料収集のための国内旅費も含む)、現地調査のための国内海外旅費、Oxfordとの研究交流のための海外旅費でほとんどの研究費が費される予定である。
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Research Products
(2 results)