2013 Fiscal Year Research-status Report
わが国の地域社会が直面する課題を解決するツールとしての不動産金融の萌芽的展開
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24653075
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
家森 信善 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (80220515)
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Keywords | 不動産 / 金融 / 土地 / 担保 / 中古住宅 / 担保評価 / アンケート / 銀行 |
Research Abstract |
平成25年度においては、金融機関の実務における不動産担保の役割についてのデータを集めるために、全国の銀行および東海4県(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県)の信用金庫に対して、アニュアルレポートの提供を依頼した。全社分を確保することはできなかったものの、必要な金融機関からはおおむね入手することができた。 本研究プロジェクトの着眼点は、「不動産に頼らない」金融というバブル崩壊以降の金融システム政策の発想を根本から見直し、金融機関が不動産を積極的に活用することで、地域経済の再生に寄与できる方策の妥当性を検討し、そのための制度提案を行うことであった。その観点で質問項目を工夫して、前年度に金融機関の支店長向けアンケート調査(1350人の回答)を実施した。本年度はその結果を分析してみた。まず、中小企業貸出における担保としての不動産の重要性について、「非常に重要」あるいは「ある程度重要」という回答は89.3%に達しており、不動産担保が重要な慣行であり続けているのは間違いがないことが確認できた。ただ、5年前と比較すると、「重要性が低下した」との回答も28.1%に達していることも注目に値する。「不動産の価値の何%まで融資可能か」という質問には、61.4%の回答者が「50~80%未満」と回答しており、「100%超」は13.2%であった。平成26年度は、本アンケートを活用して、研究論文の執筆につなげたい。 一方で、国土交通省の「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」、愛知県の「居住施策に関する意見交換会」、国土交通省の「住宅瑕疵担保履行制度のあり方に関する検討委員会」に参加し、制度的な知識の蓄積に努めた。とくに、中古住宅に関する金融機関の担保評価(20年で残存価値がゼロになる)の見直しに重要な課題が存在することに気がつき、その点について検討をし、意見表明を行ってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の計画では、第一に、わが国の金融機関の実務の現状を把握するために、基礎的な統計を整理することとしていた。この点では、日経NEEDSなどの電子媒体で用意されているデータだけではなく、アニュアルレポートレベルでの詳細なデータの収集を進めた。 第二に、前年度に実施したアンケート調査を活用して、地域金融機関の不動産担保の現状についての現場の声を集めることができた。その結果、依然として不動産担保は、実務上重要であると認識されているが、その重要性は低下していることが確認された。また、融資枠の設定は、担保資産の価値の50%~80%程度に設定されているようで、かつてのように過大な担保設定は行われていないことも確認できた。 第三に、不動産は土地だけではなく、建物も含まれる。これまで、建物評価についての金融論の議論はほとんど行われていなかったが、国土交通省における議論に参加することで、住宅の担保評価の問題が不動産市場の活性化に寄与する可能性について新たに着想することができた。この点は、これまでにない政策提言に結びつく可能性があり、挑戦的萌芽研究の成果としてふさわしいものが生み出せるかもしれない。 以上より、全体として、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、研究プロジェクトの最終年度であり、成果物の形で3年間の研究結果をまとめることが最大の目的となる。 そのためには、第一に、前年度までに実施したアンケート調査及びヒアリング調査をもとにして分析を進めることである。金融業態ごと、あるいは金融機関の立地によって、中小企業融資における担保の扱い方が異なっているのか、あるいは、その重要性の変化の度合いが違うのかといった点、さらには、こうした変化が見られる理由やそれに伴う影響を明らかにしたいと考えている。この過程で生じてきたデータの不足や再調査の必要性を踏まえて、再度ヒアリング調査を行い、さらにまとめとなるアンケート調査を行い、議論の完成度を高めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初予定した支出が他の経費で充当することが可能になり節約できたことに加えて、3年の研究期間での計画的な支出を考えており、最終年度に(できるだけ多くのサンプルを対象にした)アンケート調査を実施する予定としており、そのための経費を繰り延べているため。 本年度は、成果を発表する前に、資料の確認という手間の折れる作業があるために、アルバイト謝金(60万円)が必要である。また、アンケート調査を実施するための予算(80万円)を計上している。研究機関を異動したことに伴って研究機材の購入も必要となる。発表を行うための英文校正(20万円)、投稿料(5万円)、国内・海外出張旅費(30万円)も必要となる。
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Research Products
(3 results)