2012 Fiscal Year Research-status Report
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24653092
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
川上 智子 関西大学, 商学部, 教授 (10330169)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / 国際情報交換 / 病院経営 / アメリカ / トヨタ生産方式 / 経営革新 / 事例研究 |
Research Abstract |
本研究は、医療分野における経営革新の成功要因に関する国際研究である。本研究では、主として日本とアメリカの複数事例分析を通じ、病院経営を取り巻く制度的・文化的背景を考慮しつつ、かつ構造決定論に陥らず、経営母体としての病院の主体的なマネジメントのあり方と経営革新の実現に影響する促進・阻害要因を明らかにしていく。 本研究期間の初年度である平成24年度は、事例研究を中心に展開した。調査対象とする病院の選出は、アメリカにおいてはリーチアジアソリューションズ社(代表:工藤美和氏)、日本においては,株式会社日本経営(常務取締役 平井昌俊氏)の支援や紹介を受けた他、自ら探した。研究成果の一部は2003年3月に刊行された木村憲洋・的場匡亮・川上智子編著『1からの病院経営』碩学舎に所収されている。 事例研究においては、理論的にサンプリングした調査先を順次訪問し、1事例につき、複数のインフォーマント(情報提供者)に対するヒアリング調査を実施することを原則としている。また、事例研究と並行して、先行研究の文献調査と日米の医療業界に関する最新情報の獲得も進めていった。2012年10月には、日本医療マネジメント学会において「病院経営におけるトヨタ生産方式の導入:日米事例の比較分析」を報告し、フィードバックを得るとともに最先端の研究動向に関する情報を収集した。 その他、2012年9月~10月には、東北地方の医療復興に関するヒアリング調査を行い、宮城・福島・岩手の3県を訪問した。10月には高知県の近森病院に1週間滞在し、看護部長に常時同行する参加観察型の研究を実施した。さらに12月には、大阪の愛仁会における業務改善活動に関するヒアリング調査を複数回実施した。2013年1月~3月には、アメリカに滞在し、ワシントン大学で病院管理学の講義を受講しつつ、複数の病院や保険会社等でヒアリング調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、当初の研究計画のとおり、日本とアメリカにおいて複数の病院におけるヒアリング調査を実施した。まず、日本においては、1病院に1週間滞在し、看護部長に同行する形で病院の内部を参加観察する機会に恵まれ、病院における経営の在り方や業務改善の実態を理解することができた。またアメリカにおいては、シアトルで3病院・1保険会社・1大学、カリフォルニアで3病院、ボストンで1大学のヒアリング調査を実施した。 以上のように、経営の規模も形態もトヨタ方式導入の動機も異なる複数の医療機関を調査することを通じて、病院経営における医療革新のモデルを概念的に構築するに至ったことが、今年度の成果の一つである。 加えて、平成24年度は、研究成果の発信や公刊も積極的に行った。まず2012年10月には日本医療マネジメント学会で日米の事例を紹介し、条件依存的な枠組みで、病院経営の革新に用いるツール(例:トヨタ生産方式)の導入とそのマネジメントを考えていくことの重要性を指摘した。 さらに、2013年3月には病院経営の初学者向けテキスト『1からの病院経営』を刊行した。同書は他の2名の大学教員と編集した、計17名の執筆者による共著本である。執筆者は医師・看護師・病院管理職・病院専門の会計士・経営学者・会計学者・病院管理学者等から構成され、医療分野の経営学をテーマに、業種横断的な協働が実現された。本書の編纂と刊行を通じて、取材先の愛仁会におけるトヨタ生産方式の導入に関する事例を紹介する一方、他の章に掲載された多様な事例を通じて、日本の医療の現状を幅広く理解することができた。 以上のように、研究論文や研究書としての公刊については、今後の研究期間における課題であるものの、すでにテキストとしての刊行は達成した。従来にないコンセプトのテキストによって、病院経営のあり方を広く世に問う契機を与えた貢献は大きいと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、前年度に実施した文献研究・ヒアリング調査・二次情報収集等の成果を踏まえ、病院経営の革新の成否要因に関する概念モデルの構築を行い、事例研究に基づく発見事項をより一般的に検証可能な形へと操作化していくことを目指す。その過程において、追加情報を獲得する必要があれば、フォローアップのヒアリング調査を実施する。 なお、平成25年4月より、日本マーケティング学会において医療マーケティング・リサーチプロジェクトを新たに立ち上げることとなった。そのため、その研究報告会の機会にも、本研究の成果を公表し、関係各位からのフィードバックを得たいと考えている。 最終年度である平成26年度には、事例研究の成果を論文にまとめ,国内外の学会やセミナー等で発表する。さらに、事例研究で得られた知見に基づき、大規模サンプルによる質問票調査のための概念モデルをさらに精緻化させ、仮説を導出し、実証研究へと発展させる。 質問票調査の実施対象としては、複数の病院における多職種を現時点では想定している。調査実施に際しては,調査対象先の名簿を購入し、封入・発送作業は専門者に委託する。収集したデータは機密性を保持し、正確に入力したうえで分析を行う。分析結果の解釈に際して、必要があれば回答者に追加でヒアリング調査を行い、データの正確な理解に努める。 最終的に、本研究課題の期間終了までに、収集したデータで仮説を検証した実証論文を執筆し、国内外の査読論文誌に投稿したいと考えている。 海外の研究者とのパートナーシップに関して、当初、フランスにあるINSEADのブルーオーシャン戦略研究所との共同研究を計画していた。実際に2012年7月には、同研究所に客員研究員として約1週間滞在し、病院の事例執筆も行った。今後は、他の海外研究機関との共同研究の可能性も含め、さらに波及効果の大きい対外発信の可能性を探っていく所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(4 results)