2012 Fiscal Year Research-status Report
素朴弁証法の日本人の消費行動への影響に関する実証研究
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24653096
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 智子 京都大学, 経営学研究科, 講師 (20621759)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿久津 聡 一橋大学, 国際企業戦略研究科, 教授 (90313436)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 アメリカ / 文化的自己観 / 文化比較 / ブランド / 国際マーケティング / 素朴弁証法 / 弁証法的自己観 / 相互独立的・協調的自己観 |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本人の消費行動に対する素朴弁証法(naive dialecticism; Peng et al., 2004)の影響を探索・検証することである。素朴弁証法とは、認知・感情・自己の捉え方における文化差を説明する上で、新たに提案されている概念である。ある文化の人々は、矛盾を含む情報の調整においてより寛容であるという。そして、このような弁証法的な視点を持つ人は主に東アジア文化圏に住んでいるとされている。しかし、これまでの研究では、日本人をとりあげたものは少なかった。そこで本研究では、日本人を対象とした実証研究を行うこととした。 平成24年度には、研究の第一歩として、素朴弁証法を測定する尺度である弁証法的自己観尺度(Dialectical Self Scale; Spencer-Rodgers, Srivastava, & Peng, 2001)の日本語版を開発した(鈴木他, 2012)。これまで弁証法的自己観を測定する尺度は英語版しか存在せず、日本語での測定が不可能であった。本研究で開発した日本語版弁証法的自己観尺度は日本語版として妥当であり、これによって日本人を対象とした実証研究を積み重ねていくことが可能となった。 また平成24年度には、弁証法的自己観と従来の文化的自己観である相互独立的・相互協調的自己観(Markus & Kitayama, 1991)との関係を検証した。相互独立的自己観と相互協調的自己観は、概念的には相反しているため、我々は弁証法的自己観が2つの自己観の差を説明すると仮定した(相互独立的・相互協調的自己観の両方が高い(低い)人は、弁証法的自己観が高い)。日本人を対象としたサーベイ調査を2度実施したが、いずれにおいてもこの仮説は支持されなかった。仮説が支持されなかった理由としては、さまざまな仮説が考えられ、今後、更なる考察を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、これまでおおむね順調に進展していると評価している。主な理由は以下2つである。第一に、研究実施計画が順調に遂行されている点である。本研究は、3つのプロジェクトで構成されているが、初年度で予定されていたプロジェクト1(日本語版弁証法的自己観尺度の開発)は達成された。プロジェクト2(弁証法的自己観と相互独立的・相互協調的自己観の関係の実証研究)においても、サーベイ調査を2度実施し、仮説が支持されないことを確認した。平成25年度は、当初の予定通り、プロジェクト3を実行に移す。 第二に、順調に研究成果が遂行されている点である。まず雑誌論文だが、平成24年度に1本掲載され、平成25年度は2本の掲載がすでに決定している。つぎに学会発表は、平成24年度に2本発表を行い、平成25年度もすでに1本発表し、もう1本の発表も決定している。雑誌論文・学会発表ともに、国内ならびに海外に向けて発信できていることも、本研究の順調な進展を表しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策だが、日本語版弁証法的自己観尺度の開発が達成されたことから、今年度以降は、いよいよ日本人の消費行動に対する素朴弁証法の影響の探索・検証を進めていく(プロジェクト3)。具体的には、消費者のブランド選好に対する素朴弁証法の影響をとりあげる予定である。 日本人消費者のブランド選好に対する素朴弁証法を探索・検証する上で、我々はHeine, Proulx,とVohs(2006)の「意味の維持モデル」(Meaning Maintenance Model、以後MMM)に着目した。MMMは、人々が意味の維持を必要とすると考え、そのため「意味への脅威」(meaning threats)が生じた場合、既存の信念に対する人々のコミットメントは高まり、その結果、意味が確証されると論じている。この考えを前提とするならば、素朴弁証法の高い人々は、矛盾を含む情報の調整においてより寛容であるため、「意味への脅威」の影響が比較的弱いと考えられる。本研究では、「意味への脅威」とブランド選好の関係、ならびにそれら関係に対する弁証法的自己観の影響を探索・検証する。 さらに、日本人の消費行動に対する素朴弁証法の影響に関する理論を構築する上では、日本人消費者と非日本人消費者の比較調査が必要であると考えた。日本人のみを対象とした調査の結果からは、素朴弁証法が影響あるかということを明らかにすることは可能であるものの、その影響が日本人特有のものなのか、あるいは万国共通のものなのかといったことまでは分からない。また、日本人における素朴弁証法と消費行動のメカニズムを解明することも難しいといえる。そこで、プロジェクト3では、日本人とカナダ人それぞれに対して調査を行い、比較研究することを新たな研究の推進方策として加えることにした。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は、プロジェクト3の実行と研究成果の発表、この2つの実行に使用する予定である。第一に、プロジェクト3(日本人の消費行動に対する素朴弁証法の影響の探索・検証)の遂行についてだが、予算の大部分は、日本とカナダでの国際比較調査に使用される予定である。具体的には、実験室実験調査を日本とカナダそれぞれで実施する。その他にも、調査の実施に向け、図書や文具品などの物品も必要となるため、費用に計上する。 また、成果発表に必要な研究費についてだが、具体的には、国際学会(アメリカ)ならびに国内学会で成果発表に費用(旅費など)を必要とする。これらの費用を研究費から捻出する予定である。
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Research Products
(7 results)