2013 Fiscal Year Research-status Report
素朴弁証法の日本人の消費行動への影響に関する実証研究
Project/Area Number |
24653096
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 智子 京都大学, 経営学研究科, 講師 (20621759)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿久津 聡 一橋大学, その他の研究科, 教授 (90313436)
|
Keywords | アメリカ:カナダ / 国際マーケティング / ブランド / 文化 / 国際比較 / 素朴弁証法 |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本人の消費行動に対する素朴弁証法(Peng et al., 2004)の影響を探索・検証することである。素朴弁証法とは、文化差を説明する上で新たに提案されている概念である。東アジア人は欧米人に比べて、矛盾に対してより寛容であるといわれる。この矛盾に対する捉え方の違いは、行動レベルでもさまざまな違いをもたらすと考えられる。 平成25年度は、平成24年度の成果(日本語版弁証法的自己観尺度の開発; 鈴木他, 2012)を受けて、日本人の消費行動に対する素朴弁証法の影響の研究に着手した。具体的には、消費者のブランド選好に対する素朴弁証法の影響をとりあげた。米国を中心に発展してきたブランド・マネジメント論では,一貫したブランド・イメージが良いと考えられることが多かった。しかし我々は、矛盾に対してより寛容である東アジア人(日本人)は、ブランド・イメージに一貫性が欠如していても、ブランドを支持するのではないかという仮説を立てた。 この仮説を探索・検証する目的で、二つの調査を実施した。一つ目は、ブランド・イメージに矛盾が生じていたブランドの事例研究である。具体的には、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のブランド・イメージを時系列比較(2001~2013年)と国際比較(米国 vs. 日本)で分析した。そこから見えてきたのは、USJのブランド・イメージは一貫性からはほど遠いが、日本の消費者は支持しているということであった。二つ目は、架空のブランド拡張を使用した実験調査である。マクドナルドからかみそりが発売されるという状況を提示し、どの程度しっくりくるか等(ブランド合致度)を尋ねた。その後、対象者の素朴弁証法を測定した。相関分析の結果、ブランド合致度と素朴弁証法は正の相関を示し(r = .289, p < .05)、仮説は支持された。これら結果は、既存のブランド・マネジメント理論に対して新たな視座を提示したといえよう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、これまでおおむね順調に進展していると評価している。主な理由は以下2つである。第一に、研究実施計画が順調に遂行されている点である。平成24年度にプロジェクト1(日本語版弁証法的自己観尺度の開発)とプロジェクト2(弁証法的自己観と相互独立的・相互協調的自己観の関係の実証研究)が達成されたため、平成25年度は、プロジェクト3(日本人の消費行動に対する素朴弁証法の影響の実証研究)を実行に移した。平成25年度には二つの調査(事例研究と実験調査)が実施され、消費者行動の一つであるブランド選好に対する素朴弁証法の影響が確認された。 第二に、順調に研究成果が発表されている点である。まず雑誌論文だが、平成25年度は6本の論文が掲載された。つぎに学会発表は、平成25年度に8本発表(うち、海外2本)を行った。招待講演は、平成25年度に7件行った。本研究から得られた文化と消費ならびに国際マーケティングに関する新しい知見について、積極的な社会発信(国内と海外)が実行できていると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、消費者のブランド選好と素朴弁証法について、さらに研究を進める。特に、消費者のブランド選好おける素朴弁証法の干渉効果について検討する。 二つの研究を予定している。第一に、「死の顕現性」のブランド選好への影響に対する素朴弁証法の干渉効果について検証する。先行研究では、消費者は「死」を想起すると、自国(vs. 外国)ブランドを選好する傾向にあるといわれている。我々は、このブランド選好に対する「死の顕現性」効果が、素朴弁証法によって干渉されると考えた。すなわち、素朴弁証法が低いと、先行研究の知見と同様に、自国(vs. 外国)ブランドを選好する傾向にあるが、素朴弁証法が高いと、外国ブランドと自国ブランドを同程度に選好すると予測した。 第二に、近年、社会心理学で注目を集めている意味維持モデルのブランド選好に対する影響における素朴弁証法の干渉効果を検討する。意味維持モデルでは、人は「意味の維持」を必要とすると考えられている。そのため意味への脅威が生じた場合、既存の信念に対するコミットメントが高まると主張されている。このことを消費者のブランド選好で考えた場合、意味への脅威は、例えば、親近感のある(vs. 親近感のない)ブランドや自国産(vs. 外国)ブランドに対する選好を高めると考えられる。しかし素朴弁証法の高い人は、既存の信念に対するコミットメントが比較的低いことも考えられる。ブランド選好で考えると、親近感のない(vs. 親近感のある)ブランドを同程度に選好する可能性がある。 また平成26年度は最終年度でもあるため、成果発信にさらに努めたい。中でも、トップレベルの国際会議に投稿し、本研究の成果を発表したいと考える。同時に、国内の学会や一般向けの会合でも研究成果を発表し、社会に還元していきたい。そして、論文を国内・海外ジャーナルの両方で発表することを、引き続き行っていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた一番の理由は、平成25年度に予定されていた国際比較調査(日本とアメリカ)が平成26年度へと延期になったためである。国際比較調査の精度を高めるため、平成25年度は、まず日本国内で仮説を検証し、前準備を行うことに集中した。 平成26年度の研究費は、主に今後の研究の推進方策で挙げた、二つの研究の実行と研究成果の発表で使用する予定である。予算の一部は、延期されていた国際比較調査の実施(日本とカナダでの実験室実験調査)で使用する。具体的には、調査参加者への謝金とRA費などに研究費を使用する。その他にも、調査の実施に向け、図書や文具品などの物品も必要となるため、費用に計上する。 また、国際学会ならびに国内学会で成果を発表するためにも研究費が使用される。具体的には、渡航費、滞在費、参加費などである。これらの費用を研究費から捻出する予定である。
|
Research Products
(22 results)