2012 Fiscal Year Research-status Report
正しさゆえの愚かさと賢さに関する理論構築と実証研究
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24653165
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Shukutoku University |
Principal Investigator |
神 信人 淑徳大学, 総合福祉学部, 教授 (30296298)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 公正感 / チキン・ゲーム |
Research Abstract |
「自分は正しく、相手は正しくない」と感じた時に示される行動傾向を検証するため、説得実験を実施した。まず実験参加者を説得者と被説得者の役割に設定し、説得者には意見の異なる相手に向けた説得文を作成させ、それを読んだ被説得者がどの程度反発を感じるか測定した。そこからどのようなメッセージが反発されるか、反発されるメッセージを書くのはどのような場合なのかを検討した。結果は、自分の主張の正しさについての確信度が高い場合ほど、頑なで対立意見者を攻撃するメッセージを書き、被説得者を反発させる傾向が観測された。さらにメッセージ内容から、「意見の対立が存在するのは当然である」と考えられない者ほど、頑なさが高まることが考察された。 さらに正しさゆえの「頑なさ」が適応的になる環境構造に関する理論的検討を進めた。本研究において頑なさが適応的になる状況と想定している順次チキンゲーム構造では、相手に対する相対的な強さが重要な役割を果たす。この相対的強さは闘争した場合に被る損害の大きさによって概念化される。相対的に弱い相手と闘争してもほとんど損害は被らないが、より大きな相手との闘争は大きな損害をもたらす。そのゆえ己より弱い者から挑戦された場合は頑なに闘争に向かい、己より強い者とは闘争を回避することがより適応的になる。この闘争で被る損害の大きさは、現代の人間社会では身体的強度等より、各々が周囲からどれだけ支持を動員できるかに左右されると考えられる。周囲に支持される側は、頑なに対応しても適応的になるだろう。こう考えると、「正しさ」とは周囲から支持を動員できるか否かの判断基準であると解釈でき、だからこそ「正しさ」は個々人の価値判断に止まらず、他者にも同様な判断を求めるとも言えるだろう。25年度以降の実験やシミュレーション研究に向けて、以上のような頑なさが適応的になる対人関係構造の精緻化を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した計画で予定していた第2実験を実施しなかったため、実証データの蓄積という点においてはやや遅れていると言えるが、適切な実験やシミュレーションを実施するために必要な理論的検討や関係構造モデルの構築は当初の予定以上に進んでいる。理論モデルの構築を優先したのは、適切な実験やシミュレーションを実施するためにはそれが不可欠であり、さらに研究計画時には想定していなかった新たな視点が発見されたためである。それに伴い理論モデルは、当初想定していた以上に精緻で汎用性の高いものとなっている。このことは、今後の研究の進展においてプラスの効果をもつことが期待でき、全体としては概ね順調に進展していると言える。 実証データ収集のための実験実施費用等については、25年度に新たな実験を計画しているため、研究費の配分的にも適切であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、24年度に実施できなかった第2実験の代わりに、理論モデルの構築によってその重要性が明らかになった、どのような言動によって他者からの支持や支援を引きだせるのかに関する実験室実験(新第2実験)を予定している。具体的には、利害対立が存在する実験状況を設定して、そこで他者から支援を引き出すことができる主張や行動がいかなるものかについて、集団実験によって検証する。 交付申請書で25年度に実施を予定していた第3実験は、新しい理論モデルと整合する形に一部修正して行う予定である。一方、同じく交付申請書で25年度に実施を予定していた第1調査については、新しい理論モデルに照らした場合の研究意義が低下したために実施を取りやめる。代わりに、第1実験の結果から導かれた、正しさゆえに生じる頑なさを低減する方法についての実証研究を行う。自分が正しいと思ったとき、だからといって、頭ごなしに主張を押しつければ相手が反発することは、相手の立場に立って視点取得をすれば容易に予測できるはずである。にもかかわらず、自分が正しいと思うとそれができなくなる感情的特性とその解消方法の解明を目指して、利害対立状況についての場面想定法質問紙調査を行う(新第1調査)。 26年度の研究については、当初の研究計画に沿って研究を進める予定であるが、新たな理論モデルの構築に応じて部分的に修正を行うことになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に実施を予定していた第2実験の代わりに新たな実験を25年度に実施する。
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