2012 Fiscal Year Research-status Report
被災地と非被災地をつなぐ「宇宙俳句・連句療法」の学校プログラムが及ぼす心理的効果
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24653199
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Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
黒沢 幸子 目白大学, 人間学部, 教授 (00327107)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 学校プログラム / 中学生 / 俳句・連句療法 / コミュニティ臨床心理学的援助 / 被災地支援 / 国際宇宙ステーション / 心のケア |
Research Abstract |
わが国の伝統的詩歌を土壌に持つ心理療法の1つに,主に統合失調症患者へのデイケアで用いられてきた「俳句・連句療法」がある(飯森,1990)。これに対し日本宇宙フォーラム(JSF)は,宇宙を提出先として俳句や連句を詠む学校プログラムを開発し(「地球人の心ぷろじぇくと」),その一環として,東日本大震の被災地A中学校と非被災地協力校とを連句でつなぐ活動(以下,本取り組み)を報告している(山中,2012)。表現活動やピアサポートは,子どもの心理的ケアや発達・成長を促すとされる(黒沢,2002)。そこで本研究は,被災地校と非被災地校の両者への調査から本取り組みの特長を探求し,コミュニティ臨床心理学的視座から,今後の災害下心理的援助活動ならびに,子どもの心理的発達・成長の促進に資する学校プログラム活動に有意義な知見を得ることを目的としている。 平成24年度には,子どもたちの心理的ケアや成長に対する本取り組みの貢献等を尋ねる面接調査を,被災地A中学校及び非被災地協力校4校の教員計8名,JSF職員1名に行った。続いて,本取り組み参加時に中学生であった被災地・非被災地の生徒に,本取り組みに関する感想の自由記述と,邦訳したPTG(posttraumatic growth:外傷後成長)尺度(全21項目)(Tedeschi et al., 1996)への回答を求めた。なお,PTG尺度は,全国各地の未参加中学校13校でも回答を求めた。並行して,東日本大震災で津波被害に遭った中学生の心理的様相とその変化について,被災地A中学校生徒によって詠まれた句作品について,KJ法(川喜田,1996)を用いた質的体系化を試みている。2011年5月の句からは“復興”が象徴的希望を表していること,“海”を詠む2011年の5月と11月の句の違いからは子ども達の情緒的表現の深化が認められている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,宇宙を提出先とした「俳句・連句作り」の学校プログラムがもたらす心理的効果をコミュニティ臨床心理学的視座から,量的・質的な多様なデータを用いてプログラム評価を行い,本取り組みのさらなる活用可能性を見出すことを目的とした。平成24年度は,これらの目的を達成するために,本取り組みに参加した被災地校・非被災地校の生徒・職員を対象に面接調査,質問紙調査等を実施した。当初の計画以上に多様なサンプルが得られている。心理的成長を量的に捉えるためのPTG尺度作成および,尺度の信頼性・妥当性を検証するための調査は,危機的出来事に直面・遭遇した子どもたちの心理的成長をよりよく捉えることを可能にしたと言える。 調査によって収集された音声データや回答済質問紙は,今後の分析に向けた逐語録化やデータ化がほぼすべて完了されている。現地の復興状況を踏まえ,取り組みの規模の拡大による被災地校の負担増大を避けるため,研究開始時に計画されていた参加校の新たな開拓は実現されなかった。 収集された俳句・連句作品のうち,被災地A中学校生徒によって詠まれた2011年5月の句(学内紀要に掲載済)と2011年11月(一部),2012年5月(一部)(平成25年度の学術大会での発表(全部で4題)がすでに内定)はすでに質的体系化が行われている。 これらのことから,本研究は当初の研究計画から調査対象に対する現実状況に即して若干の修正を行いつつ,研究目的の達成に向けておおむね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,平成24年度までに収集・データ化された以下8種の資料について,質・量の両側面から分析・検討を行う。①被災地A中学校で詠まれた2011年11月,2012年5月,2013年5月の俳句・連句作品,②平成24年度に非被災地4校で詠まれた連句作品,③本取り組みへの参加校(被災地1校,非被災地4校)の教員8名,日本宇宙フォーラム職員1名と研究者とで実施された個別面接やグループ・ディスカッションの逐語録,④被災地A中学校生徒と現地教員とで行われた本取り組みについての座談会,⑤本プログラムを体験した各校生徒が自由記述した感想,⑥プログラム実施校で実施された質問紙調査(PTG(posttraumatic growth:外傷後成長)尺度)の結果,⑦本取り組みに未参加の全国各地中学校で実施された質問紙調査(PTG尺度)の結果,⑧PTG尺度の妥当性と信頼性検証のために実施された大学生を対象とした質問紙調査の結果。 本取り組み参加校から得られた①から⑥までのデータについての分析・検討は,(a)被災を含む自分の体験を俳句(五・七・五)に表現すること,(b)宇宙を受け手に詩歌を紡ぐこと,(c)連句により人とつながること等の観点から本取り組みの心理的効果を探求することを目的に行われる。 ①のデータについては,甚大な津波被害に直面した子ども達が見せる力強い心理的成長を示唆する縦断的資料としても検討し,学校を主体とした自律的な復興支援について臨床心理学の見地から知見を投じることを目指す。 本取り組み未参加校から得られた⑦,⑧のデータは,被災地・非被災地のプログラム実施校との比較検討に活かすと同時に,日本全国を震撼させた大規模災害が我が国の中高生に与えた心理的影響を示唆する資料としてまとめる。 これらの研究成果は研究倫理に則って公開し,広く社会に還元する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,子どもたちの心理的成長について縦断的に検討するため,平成24年度に実施されたものとほぼ同様の質問用紙・感想用紙等による調査を実施する。こうした調査の実施や,調査によって得られた資料のデータ化の委託,質的・量的アプローチを用いたデータ分析等を行うために,大半の研究費が使用される。 それ以外には,平成24年度の研究成果に関する学術大会での発表や学術論文への投稿に係る諸経費,平成24年から二カ年に渡る研究で得た成果をまとめた冊子の印刷・製本に係る費用,幅広く本研究成果を周知するための簡易な成果報告書作成に必要な器材の購入費,ならびに研究協力者および研究参加校等に冊子や成果報告書を配布するための郵送費に研究費を充てることを計画している。
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Research Products
(5 results)