2012 Fiscal Year Research-status Report
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24653209
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
一谷 幸男 筑波大学, 人間系, 教授 (80176289)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 一夫 筑波大学, 人間系, 准教授 (30282312)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 指示性忘却 / 空間記憶 / 放射状迷路 / 海馬 / 前頭前野 / ラット |
Research Abstract |
忘却は、記憶痕跡の減衰あるいは古い記憶や新しい記憶による干渉といった受動的な現象として捉えられてきたが、一度記憶されたことを積極的に忘れることは可能なのだろうか。本研究は、積極的な忘却現象としてラットの指示性忘却(directed forgetting)現象が見られるかを調べ、見られるとすれば、それに関わる神経メカニズムを探ることを目的とする。 24年度は、放射状迷路課題における指示性忘却の現象の有無の検討、および関連脳領域の特定を目的とした。ラットに標準的な放射状迷路学習を習得させた後に、遅延挿入課題の訓練に移った。前半の4選択の終了後に遅延を挿入し、その後に後半の4選択をさせた。習得基準に達した後、遅延時間中に2種類の手がかりをラットに与えた(黒箱あるいは白箱の中で放置)。それらのうち、一方(R-Cue)は遅延時間後に試行後半が行われることを意味し、他方(F-Cue)は試行後半が行われず、別の部屋に置かれた別の放射状迷路において通常の8選択の試行が行われることを意味した(代替課題)。それぞれの手がかりについて5試行ずつ訓練した後、プローブ試行を行った。プローブ試行では、それまでF-Cueであった手がかり提示を行っておきながら、試行後半の遂行を行わせた。その結果、遅延時間2時間の条件で、プローブ試行の成績はR-cue提示後の成績よりも有意に悪く、指示性忘却が出現した。 指示性忘却が認められたので、R-Cue提示条件およびF-Cue提示条件のそれぞれにおける遅延時間中の神経活動を知るため、試行後半の遂行後にラットの脳を取り出し、抗c-Fos抗体を用いて免疫組織化学を行った。海馬とその周辺領域、前頭前野におけるc-Fos免疫陽性細胞を観察したところ、内側前頭前野、海馬のCA3領域で、R-Cue提示条件の方が神経活動が増していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
放射状迷路課題におけるラットの指示性忘却現象の有無の検討、および関連脳領域の特定について、ほぼ計画通りに進行した。放射状迷路課題の途中に遅延時間を挿入し(遅延挿入放射状迷路課題)、その遅延時間中にR-cue、F-cue を提示することで、ラットの指示性忘却現象が明確に見られることを、初めて明らかにし公刊した。また、遅延時間中の脳内神経活動をc-Fos免疫組織化学を指標として検討し、それにより、F-cue(忘却刺激)を提示する方が活動を増大させる脳部位は見つからなかったが、R-cueを提示する方が活動を増大させる脳部位がいくつか見られ、指示性忘却現象をもたらす上で重要な部位であると示唆された。 ラットの系統(Wistar系,Long-Evans系)間による指示性忘却現象の見られ方の差については、実施に至らなかった。本研究ではWistar-Imamichi系ラットを被験体として実験を開始したが、計画段階ではWistar ラットでは指示性忘却現象が出現しないことも想定され、その場合は他の系統を使い比較検討することを考えた。しかし、実験条件を整えればWistarラットで十分に安定した結果が得られることを確認できたので、今後他の系統のラットを使用する予定はない。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においてこれまでに、指示性忘却が明らかに出現する遅延時間条件として2時間の遅延条件が明らかとなったので、25年度は、(1)手がかり提示のタイミングを変数とした実験を行い、遅延時間中のどのタイミングでR-Cueまたは F-Cueを提示することが、指示性忘却の出現にとって重要であるのかを検索し、それによって従来議論されてきた指示性忘却出現のメカニズムについて考察するための情報を得ることを目的とする。具体的には、R-cueまたはF-cue を遅延期間を通して提示する群以外に、遅延期間の前半部分と後半部分で提示する場合の比較、さらに遅延時間を30分ずつの4つの期間に分け、4つの条件で指示性忘却がどのように出現するかの比較検討を行う。 (2)すでに24年度の研究から、脳内の関連部位がある程度推測できたので、脳内への薬物投与によって、指示性忘却にどのような影響がみられるのかを確かめる計画である。具体的には、リドカインまたはGABA受容体作動薬投与によって特定の脳部位の神経活動を遮断すること、さらに、特定の伝達物質受容体の拮抗薬を用いて一時的な受容体遮断を行うことで、指示性忘却現象が影響を受けるのかどうか、検討する。遅延挿入放射状迷路課題の手続きについては、24年度と同様である。課題の習得後、海馬および前頭前野領域へのガイドカニューレ挿入手術を行う。薬物投与はマイクロシリンジポンプを用いて、プローブ試行時の遅延時間中に行う予定である。具体的な投与方法は、これまで我々が用いてきた方法に従う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費として実験動物(ラット)、動物飼料、試薬類を、旅費として学会(国内)における成果発表旅費を、謝金として実験補助の費用を、その他として研究成果の発表のための論文掲載費を、それぞれ予定している。
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[Journal Article] Effects of repeated tickling on conditioned fear and hormonal responses in socially isolated rats.2013
Author(s)
Hori, M., Yamada, K., Ohnishi, J., Sakamoto, S., Takimoto-Ohnishi, E., Miyabe, S., Murakami, K. & Ichitani, Y.
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Journal Title
Neuroscience Letters
Volume: 536
Pages: 85-89
Peer Reviewed
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