2012 Fiscal Year Research-status Report
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24653211
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
宮内 良太 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 助教 (30455852)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鵜木 祐史 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 准教授 (00343187)
木谷 俊介 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 研究員 (70635367)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 聴覚心理 / 聴覚末梢 / 選択的注意 / 遠心性フィードバック / 聴覚末梢の能動制御 |
Research Abstract |
本研究では,聴きたい音を高次の知覚過程で選択し,その情報の遠心性フィードバックによって聴覚末梢系を能動的に制御することで,周波数分解能が選択的に変化するという仮説を検証する。 24 年度には,聴覚末梢系の特性を反映する聴覚フィルタの形状を,注意を与える手がかり音を与えた場合と与えなかった場合とで推定し,その形状の違いについて検討した。そのためにまず,ノッチ雑音マスキング法を用いて聴取者のマスキング閾値を測定した。次に,そのデータから従来提案されていたフィルタ関数を用いて聴覚フィルタ形状の推定を行った。その結果,手がかり音を与えた場合に,特に聴覚フィルタの先端部において推定値と測定値との間に誤差が生じることが分かった。そこで,聴覚フィルタの先端部を全体形状とは別に表現できる新たな推定法を考案した。その結果,手がかり音を与えた場合に,聴覚フィルタの先端部分の形状が鋭くなることが分かった。これは,手がかり音によって聴覚末梢系の応答特性が変化することを示している。この成果は,すでに論文誌に掲載され,一般社団法人日本音響学会佐藤論文賞を授与されており,重要な成果といえる。 しかし,聴覚フィルタ形状の推定では,フィルタのゲインを標準化したため手がかり音と同じ周波数の音への感度が上昇したのか,それとも,手がかり音の周波数周辺の音に対する感度が低下したのかを明らかにすることはできなかった。そこで,聴覚末梢系の応答特性変化のメカニズムを探るために,心理物理同調曲線の測定を行った。その結果,手がかり音の周波数近傍の音に対する感度が減少する傾向を示すことができた。 さらに,この効果が,遠心性フィードバックによる基底膜振動の能動制御に起因することを示すために,蝸牛内の特性を表す生理指標の一つである耳音響放射を測定する装置の構築を行った。この装置による実験は次年度以降に行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画において 24 年度に行う予定であった心理物理実験はすでに終了しており,査読付き論文として発表済みである。さらに,当初計画していた聴覚フィルタの測定のみではなく,心理物理同調曲線といった異なる指標の測定においても,注意の効果が現れることも示すことができた。しかし,このような心理物理実験による主観評価のみでは,聴覚末梢における蝸牛の機能的な振る舞いが変化したのか,高次の脳内処理において影響が表れたのかを切り分けることが難しいことも分かった。そこで,蝸牛の振る舞いを直接示す生理指標の一つである耳音響放射を測定する機器を 24 年度予算で構築した。この機器を用いた測定は,25 年度初頭に行う予定である。このように,申請時には考慮していなかった指標から目的を明らかにしようとするアプローチも進んでおり,当初の計画を超えた成果が得られると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度には,聴覚フィルタの先鋭化が,手がかり音を呈示するという刺激依存の現象なのか,手がかり音によって注意が誘起された結果生じるものなのかを明らかにする。そのために,聴覚的,視覚的な刺激条件を変えることで聴取者の聴覚的注意に様々なバイアスをかけた実験を行う。さらに,心理尺度を用いた実験のみでは,遠心性フィードバックによって基底膜振動が能動制御されていることを実証することは難しい。そこで,基底膜振動の振る舞いを反映している耳音響放射を測定することで,基底膜振動自体が注意によって変化することを示す。さらに,これまでは目的刺激を呈示する耳と同じ側の耳に手がかり音を呈示していた。これを目的刺激を呈示する耳とは逆の耳に手がかり音を呈示するとどうなるのかを明らかにする。この場合,目的刺激に対する聴覚末梢系の反応と手がかり音に対する聴覚末梢系の反応とは完全に切り離されている。一方,遠心性のフィードバックを外有毛細胞に伝えるオリーブ蝸牛束は対側耳にも繋がっており,遠心性のフィードバックが存在するとすれば,目的刺激の知覚に,異なる耳に呈示された手がかり音による影響が現れるはずである。これらの結果をもとに,聴きたい音を高次の知覚過程で選択し,その情報の遠心性フィードバックによって聴覚末梢系を能動的に制御することで,周波数分解能が選択的に変化するという仮説の妥当性について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究分担者の一人が所属変更に伴い科研費への応募資格を喪失するため 24 年度いっぱいで分担を辞退した。そのため,当該分担者が行う予定であった心理実験を実質的に行う研究補助員を 25 年度に雇用する必要が生じた。そのための雇用謝金を確保するために,24 年度の研究費の一部を 25 年度に使用するよう計画を変更した。
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Research Products
(6 results)