2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24653227
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤田 雄飛 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (90580738)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保田 健一郎 大阪国際大学短期大学部, ・, 講師 (60379229)
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Keywords | 科学 / 都市 / 授乳 / 玩具 / 幼児期 |
Research Abstract |
平成25年度は研究代表者の藤田,分担者の久保田,協力者の渋谷ともに,昨年度の「科学と技術を巡る教育思想史」に関する基礎研究を受けて,資料収集およびその分析に着手するとともに,そこからさらに基礎理論について検証するという往還型の研究に従事した。 具体的には,藤田はフランスの国立公文書館に所蔵されていた1890年~1910年頃の工場付設の保育所の調査資料や授乳手当に関する請願書,および妊婦の公的補助に関する新聞記事等を分析した。また,ほ乳瓶の広告や母乳を巡る国際会議において科学的な知が重要な役割を果たすことを確認した。久保田は、まずは江戸時代の天然痘、雛祭などの例から、近代以前の玩具は祭りの要素を内包していることを明らかにした。明治以降は、家庭教育と幼稚園教育といった二つの場所において、玩具の祭りの要素が隠蔽され、効能、安全性などが強調されることで、教育玩具として拡散していったことを明らかにした。また、この隠蔽された祭りの要素は、玩具と子どもの関係の中で蠢いており、その声を聞き取ることの重要性を確認した。渋谷は,フロイトの「ある幼児期神経症の病歴より」(通称「症例狼男」)を題材とし、これをベンヤミンの幼児期に関する回想録と比較した。これによって20世紀前半に幼児期の記述がどのように展開されたかを明らかにした。これら二つの成果をまとめ、大阪大学に博士論文として提出した。さらに、「ある5歳男児の恐怖症の分析」(通称「症例少年ハンス」)を題材として、子ども・都市・科学の関係を検討する試みに着手した。 以上のような作業によって,「交付申請書」に掲げた「①教育学的知が科学的知を巻き込みながら展開していくことを示すこと」と,「②そうした知の展開を子どもを巡る諸実践から明らかにすること」という研究目的に向けた準備を行うことが出来たと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は,研究代表者・分担者・協力者ともに,「子どもを巡る科学と技術の教育思想史」に関する基礎研究に十分従事することが出来た。特に,今年度は都市というファクターを意識することで,各人がそれぞれの関心テーマをもとに,パリと日本とウィーンにおける子どもを巡る諸実践を分析対象として絞り込んでいくことが出来た。 また方法論に関しては、「実践的な思想史」のための幾つかの観点を発展させた。例えば、「装置」(フーコー)、「もつれ」(フロイト)、「問い」(ドゥルーズ)、「理解」(ディルタイ、ハイデガー)といった諸概念を、思想史のネットワーク的な記述の内に導入することを試みた。特に研究協力者〔分担者?〕の渋谷は、そうした試みの一部を博士論文で展開している。また,藤田・久保田については,25年度に収集・検討してきた諸実践を「子どもを巡る科学と技術の教育思想史」の分析枠組みを通して分析していくという課題が明らかになった。なお,ここまでの研究は概ね計画書通りのものであり,順調に推移していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究の推進方策としては,24年度および25年度に従事した基礎研究と資料収集を受けて,その分析を主に行っていく予定である。特に,研究を進める過程で必要性が明らかとなった国内外の資・史料については可能な範囲で収集を行っていくこととする。その際,子どもを巡る諸実践を,人・モノ・言説のネットワークという観点から分析をし,そのネットワークがどのように構成され,機能していたのかを明らかにしていく。なお,この個別研究においては各人が独立して検討を行うのではなく,検討の場に基礎的資・史料を持ち寄り,議論していく作業を通して分析のあり方や他の可能性を拾い上げ,研究自体をブラッシュアップしていくことを目指す。なお,平成26年度については,日本教育学会に於いて,研究代表者・分担者・協力者を中心としたラウンドテーブルを企画し,成果発表を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
資・史料の収集のためにフランス(パリ)・オーストリア(ウィーン)の各都市の公文書館に行くための経費(旅費)を計上していたが,研究の進展状況から鑑みて,理論研究が進むことで的確な資・史料を効率的に探すことが可能になる最終年度まで調査を持ち越すことを決定したため。 当初は,24年度および25年度に予定していた海外での資料収集であるが,理論研究の進展を待つ関係上,最終年度にあたる26年度にフランス(パリ)およびオーストリア(ウィーン)の各都市の公文書館に出向き,収集を行うこととした。また,19世紀から20世紀にかけての貴重な資料については,研究を効率的かつ継続的に行うためにも,可能な範囲で購入する予定でいる。中には貴重な資・史料も含まれている関係上,予算に応じて対応することとしたい。
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