2012 Fiscal Year Research-status Report
わが国における「高等教育界」の権力構造と政策過程に関する定量的・定性的分析
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24653245
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 鉱市 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (40260509)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 高等教育政策 / 計量テキスト分析 / 声価法 |
Research Abstract |
本研究は、「高等教育界」における問題群(重要問題としてイシュー)と参加者群(その中核に主要アクター)の関係性を分析し、この界に独自の政策形成・決定のメカニズムを定量的・定性的に解明することを目的としている。まず定量的な分析での今年度の実績としては、戦後わが国の高等教育において重要な役割を果たしてきた政治家(国会議員)を同定し、彼らの社会的特徴とその発言量・内容を考察することによって、高等教育をとりまく政治構造と政策形成・決定における影響力パターンを解明した。具体的には、戦後1945~2012年までの国会「文教関連委員会」において、「高等教育」に関して発言した国会議員376名を同定し、その発言量の順に「コア」、「中間」、「周辺」というグループに分割して、彼らの社会的属性と発言量の推移およびその内容の変容を考察した。分析の結果、戦後の高等教育政策に関与する政治アクターの属性は一枚岩ではなく、政策形成・決定において様々な発想様式や議論の様式が存在してきたこと、またグループ間ならびにコアグループでは衆参議院間でそれぞれその発言活動に大きな差異が見られること、1960年代から70年代前半期が最も高等教育関連の審議が活発でその後は低調になっていくこと、2000年代後半からは教育や学生に関するテーマへとシフトしていくこと、などを明らかにした。 次に、定性的な分析での実績としては、社会学・政治学の権力構造論に関する先行関連研究をレビューしつつ、上記の量的な分析結果を参考にして、1960年代から高等教育関連の審議会委員などを長く務めた関係者とラポール形成を行った。そして、インテンシヴなインタビューを実施して、高等教育界における公式的な場には現れないアクターらの解明を進めた。これらの分析結果は、査読論文・大学紀要などにまとめ、学会発表などを行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は3年間の研究期間内に、①計量テキスト分析:国会会議録などの公式の政策・行政文書をテキスト化し、さらに計量テキスト分析のソフトを使ってその内容分析からイシューとアクターの抽出・分析を行う(計量テキスト分析)、②ネットワーク分析:高等教育関係の雑誌・新聞記事に現れた個人・中間団体・諸機関とそれらが関わる問題群を、ネットワーク分析のソフトを利用して分析を行い、その関係性を解明する、③インタビュー:主要アクターに政策過程の実態をインタビューするとともに、芋づる式に影響力のあるアクターは誰かを尋ねる「声価法」を用いて権力関係を明らかにする、という定量的・定性的な方法論を混合的に用いながら、「高等教育界」における問題群と参加者群の関係性を分析し、この界に独自の政策形成・決定のメカニズムを解明することを目的としている。 計画の初年度である24年度は、資料渉猟と理論研究ならびにデータベースの構築という基礎的作業と、それを利用した分析的作業を手がけることを目標とした。上記3課題について、具体的には、①個別の大学・高等教育政策に関する論文を渉猟しつつ、国会会議録をテキストベース化し、そこに表れたアクターとイシューの抽出・リスト化を行う、②国内外のネットワーク分析関係書籍・論文の購読し、雑誌・新聞記事をもとに、それらのデータ化・コード化・入力を行い、問題群と参加者群の抽出・リスト化を行う、③社会学・政治学の権力構造論に関する先行関連研究をレビューし、主要アクター数名へのコンタクトを開始し関係者へのインタビューの準備を行う、などを掲げていた。これらの目標は、「研究実績の概要」に記したように、ほぼ24年度内中に達成できたと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
計画期間の2年目以降は、24年度の作業を引き継ぎ、データベース整備と分析準備作業という基礎的な作業と、それを利用したデータ分析の作業を手がけ、中間的な研究成果のとりまとめを行いつつ、それらを統合する作業を進める。上記3課題についての具体的な方策は以下の通りである。①計量テキスト分析:前年度からの課題であるデータベースを完成させ、計量テキスト分析を試みる。特に24年度から積み残されている大学審議会・中教審大学部会の議事録のテキスト化、ならびにその委員の属性および発言内容のデータ化、「朝日新聞」「読売新聞」などの全国紙、専門誌や雑誌類の検索およびデータ化などを進める。これらを元に、戦後65年にわたる主要アクターの社会的属性や発言量・発言内容の分析を深化させる。②ネットワーク分析:上記同様に各アクター間のデータベースを完成させ、高等教育界のネットワーク分析を試み、その構造を解明する。③声価法インタビュー:24年度にラポールを形成した関係者を介して、より広範な主要アクターに対してインタビュー調査を実施する。数次にわたると予想される各インタビュー内容は、ICレコーダーに録音してテープ起こしし内容分析を行う。これら3課題ごとの研究成果は、高等教育学会ならびに教育社会学会での大会報告や、学会査読誌に投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
各地に散在する史資料を収集し、各種アクターに対するインタビュー調査を行うため、資料整理やテープ起こしなどの費用として「旅費」と「人件費・謝金」が必要である。またアクターについてのデータベースの構築のために、先行研究の検討と最先端の動向のキャッチアップのため政策過程や高等教育研究を中心とした図書購入ために「物品費」を、またアクターの属性分析などに統計ソフト(SPSS)などのアップデート費用や、その他文房具・メディア媒体購入のために「その他」の費用を、それぞれ使用する。さらに、研究会の開催や学会などでの発表のために「旅費」を使用する。
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Research Products
(3 results)