2013 Fiscal Year Research-status Report
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24654023
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 貴 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40114516)
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Keywords | 細胞分子 / MT1-MMP / 酵素反応 / 質量作用 / 質量保存 / 反応速度論 / グラフ理論 / 可積分系 |
Research Abstract |
本課題は細胞生物学研究と連携し, 細胞分子パスウェイネットワークをモデリングと数学解析の両面から研究している. 本年度は昨年度に引き続いて, がん細胞における分泌型基底膜分解酵素活性化パスウェイを取り上げた. がん細胞は無限増殖能, 運動能, 転移能を獲得して悪性度を増大する. 浸潤は転移の初期段階に現出する現象で, がん細胞がその表面に浸潤突起を形成し, 細胞外マトリックス(ECM)を分解して侵入することを指している. MT1-MMPは浸潤突起内に多数発現する膜タンパクであり, そのひとつの役割が浸潤初期段階で細胞外にある分泌型基底膜分解酵素MMP2を活性化することである. このメカニズムはTIMP2というもう一つの分子が介在した酵素反応で, MT1-MMP, MMP2, TIMP2の3分子の結合・解離パスネットワークとして生物学的シナリオが提出され, 実験データが蓄積されている. このシナリオに基づき, 実験で観察, 測定した結合則と反応速度によって公理的に構築された数理モデルがある. このモデルは2次の非線形を持つ12連立の常微分方程式系であり, 多変数にもかかわらずパラメータ数は少数(6個)という特徴をもつ. 昨年度はその数理構造を分析して質量作用の法則に基づく3つの質量保存則, 19のパスウェイを反応則によるグルーピングに基づく3つの反応則を演繹的に導出した. しかしMT1-MMPの重合の部分で反応則の分類が代数的に分解できずなかったため, 比較定理によって解を上下に評価するスキームを作っていた. 本年度の研究で, 反応の機会を計算することでモデルに若干の修正を施し, 反応則を代数的に分解することができた. この知見を突破口として, 修正モデルはロジスティック方程式(定数係数単独2次, 特性方程式で求積)単独線形方程式, 3連立線形代数方程式の3つのモジュールに分解され, 完全可積分系となっていることを突き止めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
化学反応論を見直して, モデルに修正を加えた. この修正の優位性を質量作用の法則に基づく3つの質量保存則と, 19のパスウェイを反応則によるグルーピングに基づく3つの反応則が代数的に完全に分離されることで理論的に実証した. 研究はモデリングにとどまらず, その帰結としてグラフ上の完全可積分力学系の概念を導出したことは予期していなかった著しい成果であり, 研究は当初の計画以上に進展している
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Strategy for Future Research Activity |
3つの分子MT1-MMP, MMP2, TIMP2の結合・解離パスネットワークの分析をさらに進め, シミュレーションによって修正モデルがどのような効果をもたらしているかを明確にする. またターンオーバーや空間分布も含めたより現実的なモデルを導入して, 細胞生物学研究との連携をはかる. 反応パスウェイネットワークの力学系については, 非平衡熱力学の立場から他の例についても分析し, 特に今回発見されたグラフ上の完全可積分力学系は純粋数学的にどこまで広げられるかも考えたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は謝金を用いて大量の数値シミュレーションを実施して, 数理モデル検証の裏づけとする計画であったが, 解の厳密表示が得られるなど理論解析が進展したため, 最小限の時間で初期の目的を達成することができた. 論文投稿料, 別刷り, 学会発表旅費等によって研究成果を広く社会に発信するとともに, 研究討論を頻繁に行って本課題で得られた理論を整備し, 研究の深化や応用の方向付けを与える.
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Research Products
(5 results)