Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は, 細胞分子パスウェイネットワークを対象とし, 生命科学研究と数学研究の融合を目指して実施したものである. 結合解離を含む複雑な細胞分子動態研究は, 遺伝子解析, 蛍光イメージングによって飛躍的に進展したが, 今なお現象を統一的に説明する基盤となる生命動態原理を確立して, 様々な予測を提出することは実現されていない. 本研究は, 分子細胞生物学実験から推察されたシナリオを数式で表して数理モデリングすることにより, 生命科学と数理科学の融合を図る一方, 数理モデルの数学解析を通して, その数学的な構造を拾い出すことを行ってきた. 本研究でとりあげたのは, がん細胞が悪性化して浸潤能を獲得する過程で最初に現れる, 基底膜分解酵素活性化についてのMT1, TIMP2, MMP2の3分子の結合・解離ネットワークである. すでに生物学実験の知見を正確に再現する数理モデルが知られていたが, そのグラフ上の力学系の構築にはなお不明確な点が残されていた. 本研究では反応速度論を再吟味して, 反応速度を2倍にしなければならないすべての場合を明らかにした. その上で, 構築した12連立の方程式から3つの質量保存則, 3つの質量作用則が抽出されること, その6つの関係式によって, 方程式はロジスティック型の定数係数2次非線形項の単独1階方程式, 非斉次係数単独線形1階方程式, 線形連立方程式に分解され, 解がすべて陽に表示されることが分かった. この表示により, 各複合体濃度がすべて定常状態に収束すること, その速さが指数的なものと代数的なものに分解され, 表示式から明確に分類される. このことは数値シミュレーション評価について本質的なツールを与えるものである. 一方で, このような完全可積分ネットワークの一般形の確定についても研究を進め, N-systemというものが同じ性質を持つことがわかった.
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