2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24654025
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中根 和昭 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 招へい准教授 (10298804)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
末松 信彦 明治大学, 先端数理科学研究科, 講師 (80542274)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ホモロジー / 病理画像 / 金属画像 / 破断面 |
Research Abstract |
自発的な組織形成現象は生命現象をはじめとして自然界に多く認められる。これらの組織形成現象の機構解明は実験・理論の両輪で進められ、様々な現象に対して成功してきている。特にパターン形成の原理の理解が進む一方で、組織の形成状況をどう評価するかに関しては、未だに統一的な指標は得られていない。医学方面では、パターン認識技術を用いた癌の組織病理診断が研究されているが、癌組織があまりに多様なため実用には至っていない。結局、形態のはっきりした組織に対しては研究が進んでいるものの、組織が複雑になった場合は観察者の主観に任せられている。数学を用いた客観的な指標での組織状態評価法の開発の意義は大きい。 代表者はパターン認識技術によらない癌病変部判定アルゴリズムを提案した。これは癌細胞の無秩序増殖による組織構成要素間の圧迫・浸潤(接触障害)を位相幾何学的な性質の変化として読み取るものである。これを大腸がんの組織画像に対して適用したところ、偽陰性(見逃し)が非常に少なく、ライブラリー参照を行わないため、極めて短時間での判定が可能であった。 生体組織が正常な場合は、構成要素同士が適切な間隔を保ちながら全体としての機能を果たしている。癌というシステムとしての統合的制御から逸脱した状態では、その関係が崩れる。これを、ホモロジーを応用した手法で判別を行っている。 本年度は、この手法を高度化するために、2000枚の大腸組織に対して適用した。標本が適切な品質を持っていれば、非常に精度の高い処理ができることが分かった。 また、同手法を炭素鋼の焼き入れ・焼きなましに形成される組織について適用したところ非常に良好な結果を得た。双方と共通する組織形成原理は、『組織構成要素の肥大』である。これを確かめるために、破断面・溶接後の組織変化などに適用を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
自己組織化とは、自分自身でパターンのある構造を作り出して、組織化していく現象のことである。これは、幾何学的な形状を持つ雪の結晶の成長や、シマウマや魚の模様など、さまざまなものの中に見出すことができる。しかし、「組織」と呼ばれるものの中にはパターン構造とも判別できない原始的な構造を持つ組織が多くある。たとえば、がん組織や金属組織(Fe-C 鋼)のような物である。これらは、その組織形状により全体の性質が大きく異なる。観察者は経験に基づき、組織の種別を判別するのだが、その技量により結果が異なることもある。そのため数学を用いた客観的な基準で数値化できれば、社会に与える影響は大きい。本研究はこれら組織の定量評価を行うことが目的である。 本年度は、癌組織と炭素鋼組織に対して研究を行った。これらは非常に多様な組織である。年度中に行った大腸組織に対する解析では、非常に良好な結果が得られた。本手法を組織画像に適用するためには、適切なパラメータで二値化処理を行わなくてはならない。そこで、パラメータを自動的に設定できるシステムを開発した。これは、標本のばらつきや染色の程度によらないように設定できる。しかし、標本が極端に薄い場合に設定が上手く行かないことが分かった。標本の薄さは別の手法で規則することができるため、このようなサンプルをあらかじめ除くことも可能になった。 しかし、これらのサンプルも含めて処理ができるように改良するべきであるため、プログラムの改良を行っている。必要なデータもそろえることができたので、次年度中には完成すると考えられる。 金属組織については、ベアリング玉の焼き入れの程度による硬度の違いが本手法で計測することができることを確認できた。次年度は多くの例に対して適用したい。
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Strategy for Future Research Activity |
1、数学的側面からの考察(組合せ的位相幾何学・自己組織化):現在定義した指標以外にも、その組織の特徴を表現するものが、定義できると考えられる。これらの数学的な意義などを、大阪大学大学院情報科学研究科日比氏らのグループと検討をしていきたい。本手法は組織を100倍(接眼10倍×対物10倍)で撮影した画像に対して行っている。大腸癌の場合はこれを7×7に分割し、実験的に行った胃癌組織の場合は、14×14に分割して行った。自己組織化からの視点で考えると、組織はその特徴を表現する『サイズ』がある。このため分割を変えなくてはならなかった(胃の組織のほうが大腸の組織より繊細である)と考えられる。癌組織の多様性・複雑性は『組織構成要素の肥大』から生成されている。また同様な構成形態を持つ構造物は数多く存在する。組織の状態を、位相幾何学的な視点から数理的に表現する理論的な先鞭をつけたい。 特に、一般的なパターン評価指標へと発展させるため、微生物が生成する時空間パターン(生物対流パターン)の評価へ応用させる。明治大学の末松氏より、生物対流パターンの時間発展画像を入手し、本アルゴリズムを用いた組織構成の評価を行うとともに、実際に起こっているミクロレベルでの現象との関連を明らかにしてゆく。 2、原理的な考察:本手法が上手く行った原因に、「粗視化による組織形成の原理的な部分の抽出」に挙げられる。その際、不必要な情報を、「領域による平均化」と「画像の二値化」により成し遂げた。今後この方針を、力学系の考え方やパーコレーションの考え方で、理論的に整理していきたい。 3、病理・金属組織に対する新たな知見:本手法は大腸癌だけでなく、各種の癌(固形癌)に対して適用できると考えられる。このため大阪府立成人病センターと連携をとり、サンプルの提供・処理結果の評価・大腸がん以外への拡張などの、研究を進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。 特に本年度は本研究の最終年度であるため、結果の発表のための旅費に以下の様に執行することを計画している。旅費(国内):25年度は調査・研究旅費のため、産総研(つくば市)に行く旅費として265千円(5回2泊3日の旅費@53千円)が必要である。国内でのシンポジウムへ出席し自身の研究経過をレビュー(2回)または研究発表(3回)するために交通費として265千円(5回 大阪ー東京間2泊3日の平均旅費@53千円 )は必要である。 旅費(国外):25年度は研究発表の為に、金属系学会・病理学的学会に出席し発表を予定している。そのための旅費として566千円程度(2回)が必要であると考えられる。 25 年度は海外にこの手法を発信するために、海外への旅費を2回分にして計上する。 消耗品:ノート型のパソコンと、結果を出力するためのプリンターが必要である。また事務用品が必要である。
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