2012 Fiscal Year Research-status Report
量子エンタングルメントを用いた量子重力理論の定式化
Project/Area Number |
24654057
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高柳 匡 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 超弦理論 / 量子エンタングルメント / AdS/CFT対応 |
Research Abstract |
今年度の研究成果を大きく分けて次の3つ:「AdS/CFT対応をエンタングルメント・繰りこみとしての解釈できることを連続極限で確認したこと」、「励起状態のエンタングルメント・エントロピーの性質の解明」そして「境界中心電荷の導入」に分かれる。 まず前者では、すでに数年前にMITの研究者によって提唱されているAdS/CFT対応と実空間繰りこみの一つであるエンタングルメント繰りこみ(MERA)が等価であるという大胆な予想を、連続極限をとったエンタングルメント繰りこみ(cMERA)を活用することで確かめた。また、場の理論の情報だけから、それよりも一次元高い時空(ホログラフィックな時空)を構成する場合の余次元方向の計量の計算法を提案し、具体的な例で検証した。さらに、系を量子クエンチで励起した場合に、どのようにホログラフィックな時空が時間変化するのか調べ、重力波として解釈できそうであることを示した。 二つ目の研究では、励起状態のエンタングルメント・エントロピーをAdS/CFT対応を用いて解析した。その結果、与えられた部分系に対するエンタングルメント・エントロピーの増加と、その部分系全体のエネルギーの総和の間に比例関係が成り立ち、その比例係数は理論によらないユニバーサルな量であることが分った。この結果は、Physical Review Letter誌に掲載され、世界的に注目を浴びている。 最後に挙げた研究では、AdS/CFT対応を境界がある場合に拡張した場合に相当するAdS/BCFT対応を特に4次元重力理論と3次元共形場理論に対して詳しく調べた。この対応は、研究代表者が2011年にPhysical Review Letter誌に公表した新しいホログラフィーである。境界が二次元で中心電荷が定義でき、それが繰りこみ群で単調減少することを場の理論とAdS/BCFTを用いた議論の双方で確かめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本科研費の研究の目標は、超弦理論の記述する量子重力を量子エンタングルメントに着目して定式化することで、現在の摂動論的な超弦理論の枠組みでは計算不能な時空の創成や時空特異点の解消といった問題にアプローチする方向性を見出すことである。ホログラフィー原理(AdS/CFT対応)は、量子重力理論を重力の含まない量子多体系(場の理論など)の理論に結びつける原理であり、難しい量子重力の問題をより簡単な場の理論などの問題に焼き直すことができる。そこで、今年度の研究で、エンタングルメント繰り込みとAdS/CFT対応の等価性を検証することができたが、この成果は量子重力をエンタングルメントに着目して定式化する指導原理を確立したことを意味する。それのみならず、場の理論にはない空間(余次元)の計量をこの等価性を用いることで、場の理論の情報のみから決定する公式を発見した。この公式は原理的には、反ドジッター空間(AdS空間)のみならず、一般の時空にも適用できると考えられ、宇宙論的な背景にも応用が利くと期待される。 また、もう一つの成果として励起状態のエンタングルメント・エントロピーに対する熱力学的な性質を発見したことがあげられるが、これは重力理論から従う一般的な性質を新たに発見したことを意味し、量子重力理論を量子エンタングルメントの観点から理解するうえで重要な役割を担うと期待される。 これらの成果は世界中で注目を浴び、研究代表者は、本年度中に、プリンストン大学やカリフォルニア大サンタバーバラ校にあるカブリ理論物理研究所など11か所の国際会議で招待講演を行った。 以上により、本年度の研究成果は当初の計画以上に進展したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として、まずはエンタングルメント繰り込みとAdS/CFT対応についてさらに掘り下げた解析を行いたい。有限温度の場の理論を考えると、そのAdS/CFT対応はブラックホール時空の重力理論であることがよく知られている。そこで、我々が開発した連続的なエンタングルメント繰り込みによる計量の計算方を用いて、有限温度のスカラー場の理論に対して、ブラックホール時空の計量を再現したい。ブラックホールの地平線がどのように場の理論の観点で記述されるか明らかにすることができるはずなので大変興味深い。また比熱が負の平坦な時空のシュワルツシルド・ブラックホールもこの手法で 表すことができるのか調べたい。 また、重力理論のダイナミクスを、量子エンタングルメントの言葉で記述するというのが、本研究課題の目標であるが、その方向性を一般相対論の枠内で推進したい。具体的には、AdS空間における重力理論においてホログラフィックなエンタングルメント・エントロピーはどのように時間発展するのかという、そのダイナミクスを記述する運動方程式を重力のアインシュタイン方程式より導出したい。特に、3次元AdS空間にスカラー場が結合した理論や、4次元のアインシュタイン重力理論がシンプルな例であるので、これらを詳しく解析したい。 そして、最後に一般の時空に対する量子重力理論の定式化をエンタングルメント繰り込みの考え方をより一般化することで実現したい。このとき指導原理となるのは、AdS/CFT対応とエンタングルメント繰り込みの対応関係で明らかなように、空間の面積が 量子エンタングルメントの度合いを表面に沿って足しあげた量に比例しているという関係である。また特にドジッター時空に応用してこの考え方の検証を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当せず。
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Research Products
(18 results)
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[Presentation] Holographic Dual of BCFT2012
Author(s)
Tadashi Takayanagi
Organizer
A London Satellite Meeting: Branes and Black Holes, King's College London, UK, May. 28-Jun. 1, 2012.
Place of Presentation
イギリス、キングズカレッジ大
Year and Date
20120528-20120601
Invited
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