2013 Fiscal Year Research-status Report
量子エンタングルメントを用いた量子重力理論の定式化
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24654057
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高柳 匡 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)
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Keywords | 素粒子論 / 超弦理論 / AdS/CFT対応 / ホログラフィー原理 / 量子エンタングルメント / エンタングルメント・エントロピー |
Research Abstract |
平成25年度の本研究の主なテーマは励起状態のエンタングルメント・エントロピー(EE)とその時空の構造との係り合いであった。このテーマに関して計7本の論文を出版した。まず、局所クエンチと呼ばれる局所的な励起状態をAdS/CFT対応でどのように実現するのかに関して簡単なモデルを与えた。具体的には反ドジッター時空(AdS時空)の重力場中での質点の運動を考えればよいことを示した。特にEEのふるまいを計算し、共形場理論(CFT)を用いた結果と一致することを確かめた。 また、CFTの小さな励起状態をAdS/CFT対応を用いて解析し、重力場のアインシュタイン方程式が、EEを用いるとどのように等価に表現できるのか明らかにした。具体的には、EEの摂動が満たすある種の微分方程式が実はアインシュタイン方程式と等価であることを発見した。これはEEの拘束条件を与え、今後の研究に重要な示唆を与えた。それと同時に、本研究のメインテーマである、重力理論と量子エンタングルメントの言葉で再構築するという目標に関して、重力理論の側からの一つのアプローチを与えたことになる。 それとは逆方向に、つまりCFTから出発して、重力理論がどのように見えてくるのかという相補的な研究方向に関しても重要な進展があった。MERAと呼ばれる量子多体系の波動関数をダイヤグラムを用いて幾何学的に表現する手法があるが、これを用いてホログラフィックな時空の計量を定義する手法を我々は数年前に開発した。そこで、この手法をAdSブラックホールやCFTの量子クエンチに応用して、このような場合にもMERAが構成できることを連続極限をとって示した。これによって、ブラックホールのように非自明な時空に対しても、重力理論を量子エンタングルメントを用いて表現できることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
エンタングルメント・エントロピー(EE)の励起状態に関して、思ったよりも多くの興味深い現象を発見することができたため。たとえば、定常カレントが流れている系のEE、局所クエンチの解析、アインシュタイン方程式のEEを用いた解釈、非局所的場の理論のEEが体積則を満たすこと示したこと、さらに、重力理論の時空の構造と量子エンタングルメントを結び付ける本研究の要といえる、MERAの理論に関して、有限温度CFTのような混合状態への拡張が可能になったという大きな進展があったことも挙げられる。 それらの結果、業績として、7本の論文を当該年度に出版でき、その中の一つはPhysical Review Letterに掲載された。また、研究代表者は、その成果が評価され、超弦理論の最も権威のある国際会議strings2013や、一般相対論の最も権威ある国際会議GR20などのPlenary講演者として招待された。また、イタリアのトリエステの超弦理論のスクールや、ドイツのArnold Sommerfeld スクールなど、メジャーなスクールにおける講師に招待されている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の一つの方向性は、さらに励起状態と重力理論の時空の構造の関係に関して解析を進めることである。具体的には、AdSブラックホール時空の二つの境界のうち片側に相当するCFTを励起して、その時間発展を解析することを行いたい。EEに関する計算であれば、CFTを用いた解析とAdS/CFTを用いた解析を同時に行うことができ、両者を比較することでどのように、情報が時空を伝播するのか理解することができると期待される。 またMERAの定式化をさらに発展されたい。特に連続極限のMERA(cMERA)に着目し、現在自由場理論の場合のみしか定式化されていないので、2次元共形場理論の特に中心電荷が大きい極限に拡張したい。それをもとにホログラフィックな時空の計量と励起状態の関係を2次元CFTの場合に明らかにしたい。さらには、O(N)模型のcMERAの構成も行い、高スピン重力理論とのホログラフィーの関係を明らかにしたい。 また、MERAの枠組みで、どのように時空の励起が伝わるのか調べたい。具体的には、局所的な励起を与えた状態をCFTで考え、そのcMERAを構成する。その後に、時間発展を調べ、ホログラフィックな計量を計算することで、その励起の伝播を調べることができると期待される。最終的にはアインシュタイン方程式がどのようにMERAで現れるのかを明らかにしたいがこの目的のためには強結合のCFTの解析が必要となる。そこで、中心電荷の大きい極限の近似で構成した2次元CFTのMERAを用いて、時空が満たす運動方程式を求めたい。エンタングルメントが強結合に近づくについれ、密になることが予想されるがこれを具体的に確かめたい。
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Research Products
(19 results)