2013 Fiscal Year Research-status Report
超高精度ヘリウム同位体比分析による中性子寿命の決定と原子核・宇宙物理学への貢献
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24654058
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
角野 浩史 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90332593)
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Keywords | ヘリウム / 同位体 / 質量分析 / J-PARCパルス中性子源 / 中性子寿命 / 3H-3He法 / トリチウム |
Research Abstract |
今年度は前年度に引き続き、質量分析計の改良とその評価を行いつつ、J-PARCパルス中性子源にて中性子寿命測定用の検出器に用いたターゲットガスの3He/4He比測定を行った。その結果、J-PARCで高純度の3Heガス(99.95%以上)と4Heガス(3He/4He=1E-9以下)を混合し、その際の圧力計の読みから求めた3He/4He比と、質量分析計で求めた3He/4He比に、それぞれの分析精度(1%以下)を超える差があることが明らかになった。質量分析計で求めた大気中ヘリウムの3He/4He比は文献値と分析誤差以内で一致しているため、ガス混合の際に何らかの問題が起こっていると考えられ、現在も検討を進めている。 また向上した分析精度の評価と確度の確認のため、国際原子力機関(IAEA)が調製・配布しているトリチウム標準試料水を入手し、3He法によるトリチウムの定量を試みた。真空中にて試料水にもともと含まれていたヘリウムを十分に脱ガスさせた後、3/8インチ径の銅管に封じ、数週間後にトリチウムの壊変により生じ蓄積した3Heを試料水から抽出して質量分析計を用いて定量することで、もとのトリチウム濃度を求めた。その結果は、世界の各研究機関が報告した多数の報告値の平均値と概ね一致し、特に分析精度は優秀との評価を得た。ただ一方で、脱ガスの際あるいは3He蓄積中の保管時に、建物内に他の研究室が使用していると考えられるボンベ由来のヘリウムがごくわずかに混入することが、トリチウム起源3Heを正確に見積もる上で大きな問題となることが明らかになった。 さらに一連の分析を進める過程で、3Heの検出効率が検出器へのイオンの入射位置に依存することが測定精度の不安定性に大きく影響することが分かってきたことから、当初計画にはなかった新たな検出器を導入することを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
質量分析計の改良とその評価は概ね計画通りに進展し、目標としていた3He/4He比の分析精度(0.1%以下)を達成できている。ただし、より安定した分析を行うために新たな検出器を導入することを検討するため、研究機関を当初計画よりも延長することとした。J-PARCハドロン実験施設における放射性物質漏えい事故(H25年5月25日)以降中断していた、J-PARCに設置した3He-4Heガス混合ラインを用いた標準ガスの調製も、確度の問題が解決していないものの必要な設備の準備は整っている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、現状で既に目標を達成している3He/4He比の分析精度(0.1%以下)をさらに安定して得られるようにするために、イオンの入射位置による検出効率の変動が小さい検出器として、低ノイズ・高開口率の特注のマルチチャンネルプレートの導入を検討している。 現在データの蓄積が進められている、J-PARCにおける中性子崩壊事象の計数誤差も1%を切りつつあるので、3He/4He比測定の確度の問題を解決した上で中性子寿命を0.1%の精度で決定し、ビッグバン元素合成などの原子核・宇宙物理学における標準モデルに、より確実なパラメーターを提供することを目指す。 また応用として、地下水試料に含まれるトリチウム(半減期12.3年)が放射壊変して蓄積した3Heを精密に定量することにより、トリチウム-3He年代を高精度に測定するシステムを構築する。これを様々な地域、とくに福島第一原発の事故による放射能汚染が深刻 な地域の地下水の分析に用いることにより、放射能汚染の実態の水文学的理解に貢献する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に希ガス質量分析計の改良を行い、平成25年度にその性能評価と、J-PARCパルス中性子源における中性子寿命測定に用いるターゲットガスの3He/4He比を0.1%以下の精度で決定する予定であったが、一連の測定の過程で、検出器への3Heイオンの入射位置によって検出効率が変動することが明らかとなり、より安定した高精度測定を実現するために計画を変更し、新たな検出器を導入することとした。 浜松ホトニクスに依頼して設計と開発を進めている、マルチチャンネルプレート検出器の製作費に充てる。この検出器は通常のもの(開口率約60%)に比べて高開口率化(約90%)を施しており、直径20mm程度の範囲に入射するイオンを、位置によらず高い検出効率で検出できると期待される。これを用いて微量の3Heをパルスカウンティング法で計数し、3He/4He比の測定精度の向上と安定化を試みる。
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