2012 Fiscal Year Research-status Report
ダークエネルギー探索の為のフーリエ変換を使った重力レンズ効果の精密測定
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24654074
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
片山 伸彦 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (50290854)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 重力レンズ |
Research Abstract |
本研究の目的は宇宙に存在するダークマター (DM) の分布を時間の関数として測定し、その変化か ら、宇宙の加速膨張のメカニズム(ダークエネルギー (DE))の本質に迫る事である。DM の分布を測 定するためには、重力レンズ効果を用いる。これは、質量中を光が通って来ると光の経路が曲がる効 果である。遠方にある銀河の形が、重力レンズ効果によって歪み、その歪みを測定する事によって途 中にある質量の分布がわかる。より遠くの銀河を調べれば、より遠くの宇宙の質量分布がわかる。 本研究では、銀河の形状とその歪みを測定するために、銀河のモデルを使用しない方法を用いる。 ハッブル以来銀河の形状の研究は多くある。銀河のモデルを使用すれば、銀河の形状は良くフィット 出来、その歪みも精度良く測る事ができる。しかし、生成・衝突を繰り返して来た複雑な銀河の形状 をモデル化出来る根拠はなく、また今回のサーベイで観測する非常に遠方の銀河に関しては、これま での近傍の銀河を使用して作られたモデルが当てはまるという保証はない。もしモデルが正しくなけ れば銀河の形状が正しく測定できず、したがってその歪みの測定にも大きな系統誤差が乗るのである。 本研究では、系統誤差の少ない測定方法として、銀河の画像をフーリエ変換してからモーメントを計 算する事で銀河形状を測定する手法を用いた。上の広域サーベイでは、殆どノイズに埋もれた遠方 の銀河を使う。画像は大気の揺らぎによって大きく歪む。ほんのわずかのバイアスが測定を意味のな い物にする。H24 年度にはサーベイ開始前にはハッブル宇宙望遠鏡の銀河画像を使い、シミュレーショ ンを行い、本研究の手法がバイアスを持たない事を証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では銀河のモデルによらない歪みの場の測定を行う。これは天文学者が従来行って来た方法 とは大きく異なっている。天文学者は、昔から銀河一つずつに名前を付け、銀河を分類し、光度分布 を始めとした諸観測量を用いて、その動力学的性質から質量分布のモデルを構築してきた。これに対 して、宇宙背景輻射 (CMB) の研究や、SDSS による宇宙大規模構造の発見、昨年度のノーベル賞と なった Perlmutter らの Supernova Cosmology Project などは高エネルギー実験的アプローチであり、 最近の観測的宇宙論の大成功の原動力となっている。本研究では如何に普遍的な性質を使って銀河の 形状の精密測定を行い、バイアスなく重力レンズによる歪みの「場」を測定するかという方法が斬新 的であり、チャレンジである。画像のフーリエ変換による本研究の方法は、天文学者達が大切にして 来た銀河の個性を失ってしまう代わりに系統誤差の少ない測定値を与えるのである。 H24年度には、計画通り、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影した、解像度の高い銀河のデータに、すばる望遠鏡に取り付けられたHSC(ハイパーシュープリームカム)で想定されるノイズと、星像のなまりをデータベース化し、それらを使って、様々なシアー(歪み)の値を仮定してモンテカルロシミュレーションを行って、入力したシアーの値を得る事が出来るかを確認した。得られた結果のシアーと入力したシアーとの差(誤差)を入力したシアーの大きさの関数として、プロットし、それを一次関数でフィットする事によって、測定方法の系統誤差が得られる。この系統誤差が何処から由来するかを知る為には、想定したノイズと星像のなまりを色々変えて、系統誤差がどのように変わるかを調べる事が有効であり、本年度はその研究を行った所、本研究の方法は非常に系統誤差が少ない事がわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、HSCによる銀河のサーベイは平成24年度より開始され、平成25年度には、HSCで撮影したデータの解析を行う事が出来る筈であった。しかし、すばる望遠鏡のハードウエア自身の故障などにより、結局サーベイの開始が一年以上遅れる事になった。現在の予定では、HSCによる銀河サーベイの準備の為のエンジニアリングランが平成25年中に後数回行われ、もしそれがうまく言ったら平成26年の2月頃よりHSCによる銀河サーベイが実際に開始される予定である。もし開始されると、一月に5-6夜程度の観測時間を貰う事が出来、本年度中に数十平方度のサーベイが行われるのではないかと期待している。 本年中に行われるエンジニアリングランにおいて撮影されたデータに関しては、当然HSCパイプラインを通してデータ処理を行いデータ解析を行うが、その際得られるデータで実際いにシアー場を測定して見る予定である。しかし、本研究で予定している宇宙論パラメタを決定出来るような精度のシアー場の測定が出来るとは到底考えられない。また来年度にもし数十~100平方度のサーベイが行われたとしても、シアー場だけのデータを使って宇宙論パラメタを決定出来る事も疑わしい。 サーベイ開始の遅れにより、HSCのデータだけで充分な情報量がないのが明らかになりつつあるので、他の情報を使って何か結果がでないかと考えている。文献探索棟を行って、色々研究した所、クロスコリレーションという手法を使って他の情報との相関を取る事によって情報量を増やす事が出来る事がわかった。今後検討して行くクロスアポイントメントとして、宇宙背景輻射による重力レンズ効果とのクロスコリレーション、銀河団とのクロスコリレーション等がある。特に宇宙背景輻射による重力レンズ効果の検出は大変面白く、検討を進めて行きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度後半から開始される筈だったHSC広域銀河サーベイが遅れており、従って本研究で必要としていたデータ格納の為のストレージシステム、計算サーバの購入は、出来る限り遅い方が良さそうである。 広域銀河サーベイの進展状況に合わせてストレージシステム、計算サーバの購入と、観測の為のハワイ出張費として次年度以降研究費を使用して行く予定である。
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