2012 Fiscal Year Research-status Report
オンチップ・テラヘルツ検出による量子ホール系の単一光子検出と光子数揺らぎの研究
Project/Area Number |
24654085
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
生嶋 健司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20334302)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 量子ホール効果 / 量子ドット / スピン / テラヘルツ |
Research Abstract |
本研究の目的は、強磁場中2次元電子系で実現される電流揺らぎの抑制された量子ホール端状態を用いた点光源と単電子制御による量子ドット単一光子検出器を利用して、固体上の電磁場を発生から伝送・検出まで完結して制御するオンチップ量子光学系を構築することである。特に本研究では点光源の開発に焦点を合わせ、ノイズレス端状態を注入電流としたランダウレベル発光のメカニズムをスピン自由度を含めて総合的に解明する。 これまで、ランダウレベルダイオードにおけるIV特性の閾値電圧(発光閾値電圧に相当)がサイクロトロンエネルギーより2割程度ずれることがわかっており、発光メカニズム解明にはその原因追求が必須であった。平成24年度は、ランダウレベル発光とスピン自由度の相関を調べるため、強磁場に対して試料を回転させてランダウレベルダイオードのIV特性における閾値電圧(発光閾値電圧に相当)とサイクロトロンエネルギーの差Δを測定した。その結果、エネルギー差Δは、①高次のランダウ準位にするほど単調減少する、②2次元電子系と磁場のなす角を変えても印加磁場の大きさ|Btot|に関してほぼ一定である、③ランダウ準位間遷移v=3 -> 2についてΔの面内磁場依存性が観測された。これらの結果を先行研究と比較して解析したところ、閾値電圧のサイクロトロンエネルギーからのずれΔの原因はスピン交換相互作用による解析で説明できる、スピン交換相互作用を見積もると1 - 1.5meVであり、先行研究における評価と同程度であることが結論された。また、面内磁場依存性が観測されたことから、スピン-軌道相互作用による関与が示唆される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ノイズレスな量子ホール端状態におけるランダウレベル発光の解明は、基板上テラヘルツ光子制御へ発展させる上で極めて重要である。これまで、リング状メサ構造にトップゲートを施したランダウレベルダイオードの発光特性およびIV特性から、発光の光子エネルギーがサイクロトロンエネルギーから2割程度ずれていることが示唆される。そのエネルギー差Δの物理的メカニズムの候補はスピン分裂の増大であるが、これまで実験的な追及はされてこなかった。今回、試料を強磁場中で回転させることにより、エネルギー差Δについて2次元電子系と外部磁場のなす角の依存性を測定した。これまで我々が示唆してきたスピン交換相互作用によるスピン分裂の増大(通常のGaAs系に比べて約20倍)モデルを支持する結果が得られた。これにより、本研究課題の目的のひとつを達成した。 また、副産物として、従来の量子ホール系におけるスピン分裂の研究はバルク状態を対象としており、端状態におけるスピン分裂の測定・考察がほとんどないことに気がついた。これらの認識を基に解析をすると、先行研究との定性的振る舞いの違いについても説明することができた。さらに、条件によってはスピン-軌道相互作用の寄与が示唆されることは今後の研究にとって興味深い。 平成24年度は当初計画どおり、試料回転により交換相互作用の寄与を確認することができた。また、電子スピン共鳴とサイクロトロン共鳴との結合状態を調べる実験セットアップも始めており、順調に研究が進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の計画を以下に述べる。(1)マイクロ波照射による電子スピン共鳴の効果とランダウ準位間遷移との結合による効果を調べ、スピン自由度のランダウレベル発光への寄与を明らかにし、光子放出のスピン制御の可能性を調べる、(2)光子エネルギーを実験的に明らかにするため、端状態発光部と量子ドットをテラヘルツ平面共振器で結合させる。(1)については、現在、3He冷凍機へのマイクロ波導入ラインを設置準備中である。低周波で振幅変調したマイクロ波を照射し、振幅変調周波数でランダウレベルダイオードの伝道度をロックイン検出することにより、電子スピン共鳴を観測する。また、電子スピン共鳴・非共鳴における光子放出率の変化を調べる。(2)については、電磁場シュミレーションにより、スプリットリング型の平面テラヘルツ共振器を設計する。サイクロトロン周波数および閾値電圧に相当する周波数それぞれにマッチングを取った共振器を用いて、ランダウレベル発光の光子エネルギーを特定する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|