2013 Fiscal Year Research-status Report
ESRによる有機半導体光デバイス中のキャリア観測法の開拓
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24654087
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
黒田 新一 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20291403)
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Keywords | 共役高分子 / フラーレン / 電子スピン共鳴 / 光伝導 / 有機電界効果トランジスタ / 有機光電変換デバイス |
Research Abstract |
本年度は、共役高分子/フラ-レン複合体薄膜における光伝導測定、および電場誘起ESR測定を行い、下記の成果を得た。 1. 共役高分子/フラーレン複合体の光伝導測定 高い結晶性を示す高分子PBTTTと可溶性フラーレン(PCBM)複合体、及び、アモルファス性の高分子MEH-PPV/PCBM複合体の薄膜について光伝導測定を行い、光キャリアの再結合過程を明らかにした。キャリアの走行時間を長くし、再結合過程をクローズアップさせるため、素子構造には電極間距離の長いサーフェスセル構造を用いた。光電流の光強度依存性、および時間応答特性から、結晶性の高いPBTTTを用いた薄膜では、正負キャリア2つずつが同時消滅する4分子再結合過程が明瞭に観測された。この結果は、光誘起ESR測定の結果と符合する。一方、MEH-PPVを用いた薄膜では2分子再結合が支配的となった。この結果は、4分子過程に高分子の結晶性が寄与していることを示しており、光キャリアであるポーラロンが結晶性薄膜内を長距離拡散し、ポーラロン対(バイポーラロン)を形成することで説明された。 2. ドナー・アクセプター(DA)型高分子のESR測定 高効率の有機薄膜太陽電池材料として注目されるDA型高分子PCDTBTとPCBMの複合体薄膜を用いてトランジスタ(FET)構造を作製し、基板界面におけるキャリアの電子状態や分子配向を電場誘起ESR測定から明らかにした。ESR信号の角度依存性から、PCDTBT/PCBM複合体では、PCBM導入に伴う界面分子配向の乱れが小さいことが明らかになった。この結果は、PCDTBTの結晶性が低いことを反映しており、正孔移動度のPCBM濃度依存性が小さいことと符合する。一方、アニールにより結晶性が改善し、それに伴いキャリアの運動性が向上することがESR信号の尖鋭化の解析から明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は現在のところおおむね順調に進展しており、光伝導測定とESR測定を組み合わせ、共役高分子/フラーレン複合体における光キャリアの再結合過程やキャリアの電子状態、運動性、分子配向性などの情報が得られつつある。特に、トランジスタ構造を用いた電場誘起ESR観測を行うことで、キャリア移動度と分子配向性の相関など、光電変換デバイスの設計において重要な指針となる情報が得られており、今後、より多様な高分子材料を用いた素子についても研究結果の波及効果が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究を継続して進めるとともに、PCPDTBTやPTB7などの、より高い光電変換効率やキャリア移動度を示す高分子材料とフラーレンの複合体においてキャリア観測をすすめ、素子の高性能化の起源をミクロに解明する。光誘起ESR法によりバルク薄膜における光キャリアの電子状態や分子配向を明らかにするとともに、FET構造を用いた電場誘起ESR観測をすすめ、基板との界面における電子状態や分子配向を調べる。これと併せ、素子特製を支配するマクロなキャリア移動度を調べ、移動度を律速する要因をミクロに明らかにする。 また、高分子の分子配向が光キャリアの再結合過程に及ぼす影響を、結晶性の異なる高分子材料を用いて系統的に明らかにする。この際、これまでに開発してきた時間分解光誘起ESR計測システムを用い、ESR信号強度の時間応答特性の解析により再結合過程を低温から室温までシームレスに解明する。さらに、チャネル長の短い櫛型電極構造を作製し、再結合における電場効果の有無を高精度に明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ポリチオフェン系高分子や共重合高分子における光伝導、およびESRの研究が進展したため、同じ高分子材料を用いたFET構造における界面分子配向の研究を相補的に展開した。そのため、当初予定していた別の共重合骨格を持つ高分子材料の購入を延期した。これに伴い予算の繰越が生じた。 前年度購入を予定していた高分子材料を購入し、当初研究計画に沿った研究を展開する。
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Research Products
(7 results)