2012 Fiscal Year Research-status Report
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24654096
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
相馬 清吾 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (20431489)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 角度分解光電子分光 / トポロジカル絶縁体 / 界面 / スピントロニクス |
Research Abstract |
トポロジカル絶縁体の1次元エッジ状態の電子構造を解明する目的で、試料作成装置と測定装置について以下の改良を行った。試料の種類に応じて、半導体基板・金属基板のどちらでも試料作成を行えるように、通電加熱機構とスパッタアニール機構を製作を行った。分子線ビームの質を向上させるため、各元素専用の蒸着源を製作し膜厚計の設置・調整を行った。またカルコゲン蒸着用の真空槽の立ち上げも行った。さらに、試料の作成効率を高めるため、表面超格子の回折像をモニタしながら試料のアニール条件の調整を行えるように、電子線回折装置を組み込んだ。MBE装置からの試料を超高真空下で移送する機構を作成し、スピン分解高分解能ARPES装置へ接続した。また、スピン分解光電子分光の効率を向上させるため、低速電子回折を用いた新しいスピン検出器の設計と製作を行い、磁性薄膜ターゲットの製作用のW基板の作成も行った。 以上の装置開発と並行して、トポロジカル絶縁体のスピン分解ARPES実験を行い、以下の知見を得た。タリウム系3元カルコゲナイドTlMX2トポロジカル絶縁体について、X(S,Se)を系統的に変化させて電子構造を詳しく調べた結果、トポロジカル量子相転移によりディラック表面状態にギャップが形成される事を見出した。現行のスピン分解ARPES装置による実験でギャップ相においてもディラック表面状態に明確なスピン偏極を観測した。典型的なラシュバ系として知られるBi超薄膜のARPESを行い、通常のラシュバ効果とは異なる面直方向のスピン偏極を観測した。さらにBi薄膜の厚さを系統的に変えた実験から、Bi薄膜とSi基板と界面においても、Bi表面と同様のラシュバ状態が発現する事を見出した。Bi薄膜の成長基板としてトポロジカル絶縁体を用いた結果、Si基板では困難であった超薄膜(1-3BL)のBiが成長している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
トポロジカル絶縁体のエッジ状態を研究するためには、1次元配列ナノ構造が結晶全体で均質に配列した高品質試料を得る必要がある。本年度は、そのための様々な装置開発(通電加熱機構、スパッタアニール機構、蒸着源製作、真空槽立ち上げ、試料移送機構、スピン検出器の改良)について概ね順調な進展が得られた。 これらと並行して行ったスピン分解および非分解ARPESによって、タリウム系トポロジカル絶縁体の表面ディッラク状態にギャップが空いた系においても明確なヘリカル型のスピン偏極を観測した。ディッラク電子状態におけるギャップについては、実験のミスアライメントや結晶表面における格子欠陥などの影響によるものではないかとの批判がなされたが、実験結果の再現性、および光電子スペクトルの運動量方向のピーク巾に対する解析から、それらの可能性を否定し、ディラックギャップが本質的なものであることを確立した。3次元トポロジカル絶縁体の表面状態にギャップが形成されると、2次元系である表面のエッジにはヘリカル型のスピン偏極を持つ1次元エッジ状態が形成されている可能性がある。本研究の実験結果は、タリウム系トポロジカル絶縁体が1次元エッジ状態の研究対象として大きな可能性を持つ事を示している。 当初の計画以上の進展が得られた成果として、Pb系トポロジカル絶縁体の発見が挙げられる。Pb(Bi,Sb)2Te4について高分解能ARPESを行った結果、明確な表面ディラック電子状態を観測し、この物質が新型トポロジカル絶縁体であることを確立した。さらに、その可憐物質である(PbSe)5(Bi2Se3)3mのARPESの結果、ディラック錐の形状がBi2Se3の層数mに依存して劇的に変化することを見出した。このことから、トポロジカル絶縁体におけるディラック電子の質量獲得には、バルクにおけるヘテロ構造の制御が非常に有効であると結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
トポロジカル絶縁体の薄膜試料をMBE成長により作成する。作成した試料についてARPESを行い、量子井戸準位 とエッジ状態のバンド構造とフェルミ面を決定する。これらの試料について元素組成/膜厚/育成条件を系統的に変えて、これらの電子構造への影響について詳しく調べる事で、トポロジカル相転移に関わる電子構造を見出し、トポロジカル絶縁体ナノリボン試料の作成条件の最適化を行う。バルク絶縁性の向上のために、参考物質として3次元バルク試料の実験も行い、高絶縁薄膜試料作成に活かす。また、トポロジカル絶縁体試料上にBiなどの金属元素の蒸着を行う。トポロジカル数の異なる物質の接合により 、エッジ状態の電子/スピン構造にどのような変化が現れるかを高分解能スピン分解ARPESにより調べる。研究する試料の中で、実際に量子スピンホール効果が観測されている系については、ARPESにより決定したエッジ状態の電子構造の膜厚依存性と、量子スピンホール効果の実験結果を比較し、1次元エッジ状態と量子化されたコンダクタンスとの関連性について精密な議論を行う。系統的な実験から、量子スピンホール効果の発現に重要な電子/スピン構造は何かを見出す。 トポロジカル絶縁体試料についてスピン分解ARPES実験を行い、ブリルアンゾーン内のあらゆる波数において 、スピン偏極度の運動量依存性を精密に決定する。3次元トポロジカル絶縁体では、物質によってスピンの表面垂直成分(z成分)が観測されている事を踏まえ、スピン偏極度が物質の種類でどのように変わるかに注意して実験を行う。フェルミ面のwarpingの度合いとz成分のスピン偏極度との関係を決定し、1次元エッジ状態におけるw arping効果について検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、業者からの物品調達における価格交渉や、所属研究室における研究機器を修理/改造して用いた結果、物品費を計画当初より大幅に抑えることが出来た。一方で、新型のトポロジカル絶縁体の電子状態を世界に先駆けて解明するため、放射光を用いた高分解能ARPES実験を計画よりも多く行ったことと、新型のスピン検出器の設計を行うために製作会社があるスウェーデンに出張したことにより、旅費については大幅な支出増となったが、消耗品や物品費を調整した結果、最終的には計画予算内で今年度の研究を完了することが出来た。 本年度の研究の結果生じた89,929円については、次年度の予算規模の対して大きな額ではないので、次年度の研究計画に大きな変更は生じない。その使用用途については、本年度の放射光実験の出張費用が計画よりも嵩んだことから、国内旅費に充てるのが妥当であると考えている。
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