2012 Fiscal Year Research-status Report
局所励起・検出ESRを用いたスピン液体状態における長距離スピン伝導の検証
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24654100
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木俣 基 東京大学, 物性研究所, 助教 (20462517)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 電子スピン共鳴 / スピン液体 / 有機磁性体 / 有機薄膜デバイス |
Research Abstract |
本研究では幾何学的スピンフラストレーションに起因するスピン液体状態を示す有機磁性体において本当に長距離に及ぶ磁気励起の伝搬が存在するかどうかを調べる.磁性体における磁気伝搬はこれまで主に熱伝導度の測定を通して議論されてきたが,熱伝導には電子,格子,スピンの様々な寄与があるために,スピンのみの寄与を分離して議論する事が簡単ではない.そこで本研究ではまず,微細加工技術と電子スピン共鳴との組み合わせによって磁気励起の伝搬速度と磁気的相関長を直接的かつ独立に決定する手法(これを以下「局所励起・検出ESR」と呼ぶ)を確立し,それを用いてスピン液体状態における長距離スピン伝導の有無を検証する. 平成24度は基板上での電子スピン共鳴測定を可能にするための高周波プローブの作成を行った.マイクロ波の導入にはセミリジッドケーブルを用いた.(室温部分と低温部分にはCuおよびCu-Niのケーブルをそれぞれ用い,低温領域における熱流入の影響を抑えている.)このプローブにおいては,ネットワークアナライザを用いた簡単なテストの結果,測定の全周波数領域においてマイクロ波が透過する事を確認している. また,複数のアンテナを用いた測定を可能にするため現有のネットワークアナライザの機能拡張を行った.これにより,最大4つのアンテナ間における測定が可能になった. 試料作成に関しては,熱酸化シリコンの基板上にフォトリソグラフィを用いて微細な電極構造を作成し,その上に有機伝導体単結晶を貼付けた試料を作成した.用いた物質は本研究における目的の物ではないが,同様の手法がスピン液体物質にも拡張できると考えられる. また,スピン液体状態とは直接的関わりは少ないが,強磁性体・有機半導体接合において,強磁性共鳴を用いたスピン注入を行い,予備的ではあるが比較的長いスピン伝搬距離を学会発表で報告している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度に計画していた研究のうち,高周波プローブの作成に関しては概ね目的の性能のものを得られる段階まで達成できたと考えている.その一方で,微細なアンテナ構造の設計と作成,および単結晶の合成などの試料の作成については遅れが生じている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で開発する局所励起・検出ESRの確立のためにはまず,基板上に貼りつけた有機薄膜単結晶のESR測定を可能にする必要がある.そのため今後は基板上のマイクロ波アンテナの形状やケーブル接続の最適化をまず進め,基板上における微小単結晶のESR測定を行う.その後,複数のアンテナを作成し,異なるアンテナ間における信号の検出を試みる.ESR信号の検出はまず室温においてテストを行い,その後,低温環境において測定を行う.実際の測定では周波数掃引に伴うバックグラウンドの寄与やアンテナ同士の直接的なカップリングの影響を差し引くため,磁場を印加した状態での周波数掃引スペクトルからゼロ磁場でのスペクトルを差し引く事で本質的なESRスペクトルを得る.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は試料デバイスの作成を重点的に行う必要があるため,研究費の半分程度はそれらに必要な試薬,基板,電極材料の購入などに充てる.また,実験に必要な寒剤代等に使用する予定である.もし有機磁性体における長距離スピン伝導の観測に成功すれば,国内外での学会発表に値するインパクトは十分にあると考えられるため,そのための旅費に研究費の残りを使用する.
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