2012 Fiscal Year Research-status Report
溶液ならびに電気化学プロセスによる高温炭素系超伝導体の作製
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24654105
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
久保園 芳博 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (80221935)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 超伝導 / 炭素系物質 / インターカレーション / アンモニア法 / 電気化学法 |
Research Abstract |
本研究の目的は、有機芳香族分子、グラファイト、グラフェン、フラーレン、ダイヤモンドなどの炭素系物質への金属インターカレーションを、各種の溶媒を使った低温プロセスと電気化学的手法を使って行い、新規な超伝導物質を作り出すことにある。この目的に沿って、24年度は液体アンモニアを使って金属原子を有機芳香族分子結晶とグラファイト中に挿入することを行った。その結果、以下の研究成果を得ることができた。 ①[6]フェナセン結晶へのアルカリ金属原子の挿入の成功と超伝導転移の確認:[6]フェナセンは、ピセンより1個ベンゼンリングが多く、W型にベンゼンリングがつながった構造をもつ。この結晶は、ピセンと同じようにへリングボーンスタッキングした分子層が積層した構造を有する。カリウム金属と[6]フェナセンをアンモニア中で混合し、低温で長時間撹拌した後アンモニアを除去した。200℃でアンモニアを除去した試料は5 Kで超伝導転移が観測された。アンモニアの除去を常温で行い、高温でのアンモニア除去を行わない試料(アンモニアが含まれていると思われる)では超伝導転移は7 Kであった。超伝導体積分率は1%以下であって、さらに高い超伝導体積分率を有する試料を得ることが課題である ②カルシウム原子のグラファイトへの挿入をアンモニア法で達成:これまでリチウムとカルシウムの合金中にHOPGグラファイトを浸して高温でアニールする方法(高温液体法)で作製されてきたカルシウムドープグラファイト(CaC6)を、アンモニア中にリチウムとカルシウムを溶解させ、これとグラファイトを反応させることで作製した。ただし、リチウムがない場合にはCaC6は作製できなかった。超伝導転移温度は、高温液体法で作製したものと同じであり、11.5 Kであった。 この他に、YbC6を初めて高温液体法で合成することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アンモニア合成法を用いて、[6]フェナセンへのカリウム原子のインターカレーションに成功し、5 Kと7 Kの二つの超伝導相を作製した。これは、通常のアニーリング法では作製することができなかった超伝導相であり、アンモニア法の有効性を示すことができた。また、アンモニア合成法を使ってグラファイトへのカルシウム原子の挿入に成功した。このとき、カルシウム原子単独ではアンモニア合成法によるカルシウム原子のインターカレーションを行うことはできなかったので、リチウムとカルシウムの両方をアンモニアに溶解させ、カルシウムのグラファイトへの挿入を試みた。得られた物質は、高温液体法(リチウムとカルシウムの合金を高温で溶解させ、これにHOPGグラファイトを浸す方法)で得られたCaC6と同じ超伝導転移温度を示した。すなわち、リチウムは挿入後にグラファイト中に残らず排出されており、カルシウム原子のインターカレーションを手助けする役割を果たしている。このように、アンモニア合成法を使って新規な芳香族超伝導体が合成できたこと、従来の高温液体法とは異なる方法でCaC6が作製できたことは、研究が順調に進展していることを示している。しかしながら、得られた超伝導体積分率がいずれも1%以下と低いため、その体積分率を上昇させる必要に迫られている。また、イッテルビウム(Yb)をグラファイトに挿入したYbC6を、従来の気相法とは異なる高温液体法(イッテルビウムとリチウムの合金を作製し、これを高温で溶解させてHOPGグラファイトに浸透させる方法)で作製することに成功した(YbC6の超伝導体積分率100%)。なお、超伝導転移温度は、従来の気相法で得られたものと同じ6.5 Kである。これについても、本研究の成果としてあげることができる。今後は、他の金属原子を挿入して高い超伝導転移温度と高い超伝導体積分率を示す試料を作らねばならない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究上の課題としては、①24年度に達成したアンモニア合成法で作製した新規有機芳香族超伝導体の超伝導体積分率を上昇させること、②新しい新規有機芳香族超伝導体をアンモニア合成法を駆使して作り上げること、③CaC6のアンモニア法による合成の成功に引き続き、多様な金属をグラファイト中に挿入して超伝導体を作製すること、その超伝導体積分率を上昇させることを挙げることができる。超伝導体積分率を上昇させるためには、アンモニア合成法の条件を詳細に詰める必要がある。反応時間、反応温度、アンモニアの量を精査し、得られた超伝導体の超伝導体積分率と反応条件の関係を明らかにしなければならない。多様な有機芳香族分子を対象にアンモニア合成法を使って、多様な金属原子を挿入することにより、新規な超伝導体を探索する。さらに、グラファイトについても、アンモニア合成法を精査する必要がある。さらに、アンモニア合成法でグラファイトを対象にして多様な金属原子の挿入したい。これとは別に、すでにYbC6の高超伝導体積分率試料合成に成功した高温液体法(リチウムと対象金属の合金を作製し、これとHOPGグラファイトを反応させる方法)を多様な金属原子を使って実施する。また、グラフェンなどの他の炭素物質を対象にして、アンモニア合成法と高温液体法の適用による新規に金属挿入を進めたい。25年度にはグラファイトと有機芳香族分子系を対象に電気化学ドーピングを本格的に適用したいと考えている。そのため、従来より行なわれてきた「グラファイトへのリチウムの電気化学ドーピング」を基にして、実験を遂行したいと考えている。なお、アミン類を使った金属挿入についてもグラファイトと有機芳香族分子を対象に進める。25年度は、研究の最終年度であるので、24年度に部分的に成功した研究を全面的に成功に導くように計画的に実験を進めたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(10 results)
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[Journal Article] Synthesis and physical properties of metal-doped picene solids2012
Author(s)
T. Kambe, X. He, Y. Takahashi, Y. Yamanari, K. Teranishi, H. Mitamura, S. Shibasaki, K. Tomita, R. Eguchi, H. Goto, Y. Takabayashi, T. Kato, A. Fujiwara, T. Kariyado, H. Aoki, Y. Kubozono
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Journal Title
Phys. Rev. B
Volume: 86
Pages: 214507
DOI
Peer Reviewed
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