2012 Fiscal Year Research-status Report
有機導体で実現する相対論的電子系の電子状態と出現機構
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24654111
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
西尾 豊 東邦大学, 理学部, 教授 (20172629)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田嶋 尚也 東邦大学, 理学部, 准教授 (40316930)
梶田 晃示 東邦大学, 理学部, 名誉教授 (50011739)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ゼロギャップ伝導体 / 熱起電力 / 電子状態密度 / Dirac 電子 |
Research Abstract |
グラフェンと同様ゼロギャップ伝導体として通常の金属でも半導体でもない新しい伝導性を持つα-(BEDT-TTF)2I3は、日本で見出され唯一バルクな物質として存在するため、ゼロギャップ伝導体の特殊な電子状態の解明に有利な側面を持っている。しかしながら1.1 GPa以上の圧力下でゼロギャップ状態が実現するため電気伝導など限られた実験しか行われてこなかった。本研究では圧力下の熱起電力測定法を開発し、測定可能なことを無加圧下の既に発表済みの文献値と比較し、定量的にも一致していることを確認した。 このシステムを用いて電荷秩序形成に伴う絶縁体状態への転移において電子の状態密度の消失が原因で起こっていることを確かめ、加圧に伴い1.0 GPaまで試料全体が電荷秩序形成に伴う金属‐絶縁体転移に寄与し、転移温度が加圧に伴い単調に低下することを明らかにした。1.1 GPaから1.3 GPaまでの圧力領域でゼロギャップ状態への移行を確認し、1.3 GPa以上の高圧力下でゼロギャップ状態での温度依存性からコンタクトポイント近傍の状態密度の定量的な議論を行った。 これよりケミカルポテンシャルの温度依存性、バンドのコンタクトポイントを挟んだ非対称性、理論から予測される線形分散からのずれを見出した。また7Tまでの磁場を印加し、磁場の増大によって大きく成長する熱起電力を発見した。この熱起電力はゼロギャップ伝導体に特徴的なコンタクトポイントのエネルギーに固定されたゼロモードのランダウレベルの磁場による成長に起因すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金属でも半導体でもない新しい伝導体としてのゼロギャップ伝導体の最も特徴的なコンタクト近傍の電子状態を定量的な評価を試みてきた。評価に際してケミカルポテンシャルの温度依存性を積極的に利用し温度による状態密度のエネルギー依存性を用いてコンタクト近傍の電子状態を定量的に分析可能であることを明らかにした。この結果、今まで不明であったコンタクトポイントの電子の分散関係が信じられてきた線形のものより少し変更されることを発見した。これはゼロギャップ状態にどのように電子間相互作用が効いてくるのかの本質な解答となる。 また磁場印加により、ランダウ準位の形成によりできたゼロモードの準位の起因する大きなゼーベック係数を発見した。この係数を導く際に磁場の反転に対して反転するネルンスト効果がゼーベック係数以上に大きいことを合わせて見つけている。これらの効果はゼロギャップ伝導体に最も特徴的な量子効果であると考えられる。また、ゼロギャップ相へ移行する以前の低圧力下では電荷秩序が形成される。この転移の際電荷分布が変更される。これによる電気伝導度の異方性の変更が報告されてきたが、本研究では熱起電力にも転移直後にもこれを反映したピークを発見した。この信号が圧力下でも観測され、圧力の増加に伴い、転移を示す温度が低下し、ピークが低温側に低下することを見つけた。しかしゼロギャップへの移行への詳しいデーターは残念ながら取れてはいない。
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Strategy for Future Research Activity |
ゼロギャップ伝導体では金属、半導体での2次関数的分散関係が線形関係へと変わる。この特徴はコンタクトポイントにおける電子の状態密度を調べることで明らかになる。この研究は鴻池らにより比熱測定から進められてきたが、比熱の絶対値が決まらず、格子比熱の分離が困難なため、コンタクトポイントにおける電子構造を詳細に決定することは未だ行われていない。 本研究では、初年度ゼロギャップ伝導体に特徴的なコンタクトポイントにおける状態の電子状態を調べ線形分散からずれることを発見した。しかしこの実験を解釈するうえで伝導層内の等方的な伝導を仮定して研究を進めてきた。この伝導の異方性を調べることにより、コンタクトポイント近傍の電子状態のさらに詳細な情報を得ることができ、分散関係を詳細に検討できるものと考えられる。 つぎに比熱測定を行い、ケミカルポテンシャルの温度依存性を考慮して、両者から電子状態を明らかにする。この研究の電荷秩序の形成による電荷分布の変更を反映したゼーベック係数を観測したが、電荷秩序相からどのようにゼロギャップ相へ移行するのか明らかではない。この移行が相転移のよるものか否か明らかにし、ゼロギャップ相がどのように形成されるものか明らかにすることで、ゼロギャップ相の実現条件が実験的に決定できるものと考えられる。またゼロギャップ相がどの温度から実現するのかについての情報も得られる。この相転移の観測に関しては比熱測定によりエントロピー変化量などの物理量の決定ができる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在の液体ヘリウムの世界的な不足状況により、液体ヘリウムを使った低温実験が極度に制限されている。この状況下で研究を進めるためには、無冷媒の密閉型冷却システムの購入があげられる。本研究遂行者は他の予算で冷却システムを手配中であり、本研究で購入する試料プローブはその一部となる。このシステムを用いると連続的に温度可変が可能であり、圧力セルを設置し、室温から温度を制御しながらの連続的な温度上昇、降下が可能となる。このシステムを用いると、現在の測定より精密な熱起電力の測定が可能となる。これにより伝導層内の熱起電力の異方性を詳細に検討し、コンタクトポイント近傍の状態密度の詳細な評価を行う。この結果は日本物理学会および国際会議にて発表し、専門雑誌に投稿する。 また本研究の初年度、圧力セル中で比熱の絶対値まで評価可能なシステムの改良をおこない予備的な実験ではあるが、転移に伴うエントロピー変化まで定量的に評価が可能なことを明らかにしてきた。この比熱測定システムと本研究で開発した熱起電力のシステムと購入予定の連続冷却システムを用いて、初めに電荷秩序相からゼロギャップ電子状態への転移がどのようなかたちで実現するのか、またその時のエントロピーの変化量の評価が可能となる。次年度はこの組み合わせたシステムを用いてゼーベック係数の結果と合わせてゼロギャップへの相転移機構の解明に迫る予定である。 最後にこの冷却システムを用いて、1.3 GPa以上のゼロギャップ相で比熱の温度依存性を詳細に測定し、熱測定から電子の状態密度の情報を確認する。これは大きな格子比熱が存在するため大変困難な測定となるが、絶対値の評価可能な緩和法を用いるため、格子の寄与を同じ分子で構成された金属相のβET2I3を用いて評価し差引可能となる。
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Research Products
(8 results)