2012 Fiscal Year Research-status Report
パルスESRによる距離計測技術を用いたプリオン凝集体構造の解明
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24654112
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
中村 敏和 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 准教授 (50245370)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山盛 徹 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 准教授 (00512675)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 電子スピン共鳴 / スピンラベル |
Research Abstract |
プリオン凝集体はマウスの脳内投与で神経症状などのプリオン病特有の症状を示すことが明らかにされている。その起源解明のために種々の電子スピン共鳴測定を行った。短距離(~4nm)領域では,電子間の相互作用が大きく連続波測定が有効であり基礎データを蓄積した。また,短距離領域での高分解能計測には高磁場での実験が不可欠であり,分子研のQバンド 電子スピン共鳴装置により検証を行い高分解能測定が有効であることを確認した。一方で,4nmを越える長距離の距離情報は,タンパク質の構造解析に於いて肝要かつ重要であり,この領域はパルス法により先端計測が必要不可欠である。初年度は分子研保有のQバンドパルス電子-電子二重共鳴装置を利用し,その方法論の確立に重点を置いた。北大において,分子の2ヶ所を部位特異的にニトロオキシドラジカルでスピンラベル化(スピンプローブ)したプリオン凝集体を作成した。北大グループでは,プリオンタンパク質の組換え体について,ダイナミックスの解析のために大腸菌発現系及びに精製方法について確立し,約30種類の任意のアミノ酸残基をシステイン残基に変換した組み換えタンパク質のプラスミドを作成に成功している。プリオン凝集体の全体の構造を知るためにはタンパク質のアミノ酸を網羅的にスピンラベル化したシステイン残基に変えながら測定しなければならない。波長の短いQバンド領域は微少試料を扱えるという点で常に有利で有り,網羅的にシステインの位置を変えながらの測定を具現化するための要である。初年度は,後述するような具体的な幾つかの試料に関して,すでにQバンドパルス電子-電子二重共鳴測定を行った。得られた結果は,すでに開発済みのシミュレーションプログラムを用い,距離構造解析を行っている。 研究成果の一部については,アジア環太平洋電子スピン共鳴シンポジウムでの基調講演などで発表を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで概ね順調に進んでいると判断できる。既にプリオンタンパク質の大量培養系を確立し,任意の場所へのシステイン残基の導入とスピンプローブの反応系,単一タンパク質までのアフィニティークロマトグラフィーと疎水性カラムを用いたHPLCを用いた精製法,GnHCl存在下での凝集体の形成法等については検討が終了し,確立している。プリオン病の家族性疾患で突然変異により起こしている疾患として178のアスパラギン酸がアスパラギンへ変異(D178N)したプリオン病が知られている。初年度はD178Nプリオンタンパク質にスピンプローブを導入し、繊維状凝集体を作成し、スピン間の距離計測を持続波(CW)ESRならびにQバンドパルスESRによる二重電子共鳴法(DEER)により計測した。 3パルスシークエンスと4パルスシークエンスとの比較を行い,タンパク質に対する二重共鳴測定では4パルスシークエンス法が有効であることを見出した。また,温度を可変させながら,80K,50K,4Kの3点を評価し,50K付近が最もスピン-格子緩和時間T1もスピン-スピン緩和時間T2も十分に長くなり,十分な繰り返し時間が確保でき,強いエコー信号が取れることも確認した。このように,ほぼ既に最適となるパラメータを設定出来た。加えて,タンパク質の濃度についてはXバンドでは5mg/ml程度の試料が300μL必要だったのが,Qバンドでは1mg/mlで70μLであり,以上のことから、ほぼQバンドパルス法による電子-電子二重共鳴計測技術が確立できた。プリオンタンパク質6点にわたり凝集体形成時の距離評価が出来ており,今後,評価部位を増加させて行くことで,プリオン凝集体の全体構造の特徴を明確化することが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り,プリオン病原体の疾病機解明のためには,種々の環境下での凝集様式の理解が肝要である。平成24年度に得られた成果を踏まえながら,網羅的にシステインの位置を変えた凝集体の構造計測を行う。 プリオン病の家族性疾患で突然変異により起こしている疾患として178のアスパラギン酸がアスパラギンへ変異(D178N)したプリオン病が知られている。大腸菌での組換えD178Nプリオンタンパク質を1Mの塩酸グアニジン(GnHCl)存在下で繊維状の凝集体が,マウスの脳に対して感染性を持つことから,病原体構造を取っていると考えられている。平成25年度では,D178Nプリオンタンパク質にスピンプローブを導入し,繊維状凝集体を作成し,連続波法およびパルス二重共鳴により構造計測を行う。スピンラベル導入場所としてはネイティブなタンパク質でランダム構造をとるN末端のS36とS97,1番目のヘリックス表面のD144、2番目のヘリックス表面のT188,三番目のヘリックス表面のK204,3番目のヘリックスでC末端のY225の6カ所をターゲットとする。凝集体の粒径や繊維状構造の確認は北大保有の原子間力顕微鏡行う。これらの計測,解析が終了した後,凝集構造形成に重要な近接の相互作用をしているインターフェイスの領域の検索を連続波法で行う。特に1番目と2番のヘリックスの間のβシート構造を重点的に調べる。この領域に数点の測定箇所を増やして行く必要性がある。また,全体構造の理解のためにはN末端とC末端ヘリックス3領域の測定点をいくつか増やし,プリオン凝集体の全体構造の特徴を明確化する。既に報告されているプリオン凝集体の電子顕微鏡像や原子間力顕微鏡による実験的形態観察や数理計算モデルを用いたコンピューターシュミレーションによる実験データと付き合わせ解析を進める。研究の進捗を見ながら外場を印加した構造解析にも挑戦する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品:(当初計画通り) タンパク質の大量発現のための試薬,突然変異体作成のための試薬 旅費:(当初計画通り) 岡崎(分子研)-札幌(北大)、岡崎-埼玉、札幌-埼玉(QバンドパルスESR実験、成果発表と研究打ち合わせ) 謝金:(当初計画通り) データ整理 その他(当初計画通り) 広報,HP作成
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Research Products
(1 results)