2012 Fiscal Year Research-status Report
非平衡状態のダイナミクス解明とナノスケール量子輸送の理論研究
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24654116
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
清水 幸弘 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70250727)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 量子輸送理論 / 非平衡状態 / 行列積状態 / 電子相関 |
Research Abstract |
スピン注入磁化反転を利用するスピントロニクス素子や遷移金属酸化物薄膜を用いる電場誘起抵抗変化素子における系の状態変化は,系が熱平衡に達するよりも短い時間スケールで引き起こされる.これらの現象の微視的理解を得ることも目指して,本研究においては非平衡状態のダイナミクス,すなわち「中間過程の追跡」を行う計算手法の開発を目的としている.平成24年度の研究実施計画に従い,次の2つの研究を実施した. (1)連続体模型における量子輸送理論の数値計算プログラム開発 量子輸送理論の枠組みが最も簡単となる,クーロン相互作用をする1次元電子ガスの模型を用いて,スペクトル関数と確率分布関数の時間発展を同時に自己無撞着に数値計算するプログラムを開発した.プログラムのテストとして異なる温度の熱平衡状態にある2つの系を接触させた後の時間発展の解析を用い,実用的な計算時間で,非線形連立偏微分方程式である量子輸送方程式を数値的に解く手法の開発に初めて成功した.2次元電子ガス模型や様々な格子模型に量子輸送理論を適用するための出発点を得ることができた. (2)ハバード模型における行列積状態変分法の開発 非平衡状態のダイナミクスの研究において電子相関効果を正確に取り入れた数値計算手法を構築することを目的として,表題の研究を行った.行列積で波動関数の変分パラメータを表現する手法は,密度行列繰り込み群法から派生し,1次元スピン系の基底状態を得るための強力な手法である.また,2次元模型への応用も期待できる理論である.しかしながら1次元においてすら,電子系模型への適用例はこれまでにほとんどない.本研究において,この方法を1次元ハバード模型へ適用し,基底状態の物理量を高い精度で得る数値計算プログラムの開発に成功した.また,2次元ハバード模型へ応用するための定式化を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「連続体模型における量子輸送理論の数値計算プログラム開発」の研究においては,1次元模型のプログラム開発に成功し,量子輸送輸送方程式の数値解を得る手法の出発点を確立することができ,萌芽期の研究としてはある程度順調に進展している.一方,2次元模型における開発も終了することを当初の目標に設定していたが,2次元模型においては偏微分方程式の解法の数値誤差が蓄積してしまい,満足できる結果がまだ得られていない.次年度への課題とした. 「ハバード模型における行列積状態変分法の開発」の研究は,順調に進展している.これまでにハバード模型に行列積状態変分法を適用した研究が無く,金属状態の系へのこの手法の適用に困難な問題が予想されていた.しかしながら,本研究において計算機プログラムの高速化の工夫を行い,十分に大きな変分空間を取り扱うことができるようになり,この手法が電子系模型に置いても有効な手法となることを示した,
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Strategy for Future Research Activity |
非平衡状態のダイナミクス解明を目的として次の研究を実施する. (1)量子輸送理論の数値計算プログラム開発 現在までの達成度の欄に示した,2次元連続体模型における量子輸送方程式の解法の数値誤差の問題を解決する.そのうえでスピントロニクス素子や遷移金属酸化物薄膜を模型とした問題にこの手法を適用し,系の状態変化における中間過程の追跡を行う手法を確立する.さらに格子模型に量子輸送理論を適用する. (2)電子系模型における行列積状態変分法の開発 格子模型における量子輸送理論は,大きなサイズの系を取り扱うことが可能であるが,電子相関効果を近似的に取り扱う.その相補的な研究手法として行列積状態変分法の研究を実施する.2次元ハバード模型に行列積状態変分法を適用し,この手法が2次元系においても有効となるか否かを定量的に検証する.また,この手法による1次元電子系模型の時間発展の研究を行う,さらに,2次元の強磁性/反強磁性近藤格子模型や2バンドハバード模型へ応用する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり,平成25年度請求額と合わせ,平成25年度の研究遂行に使用する予定である.また,これまでの研究成果の取りまとめと学会発表,論文発表の準備を進めているところであり,その経費にも使用する予定である.
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