2012 Fiscal Year Research-status Report
スピン格子模型における厳密解と数値解析の生物系への応用
Project/Area Number |
24654121
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
南 和彦 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (40271530)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | スピン格子模型 / 細胞選別 / ランダムウォーク |
Research Abstract |
可解な格子模型の代表例である2次元正方格子Ising模型は、磁場と異方性のある1次元XY模型に等価である。この等価性は周期的境界条件の下で示されていたが、同様の等価性が開放端の場合に成り立つことを示した。一方向に開放端の2次元Ising模型に等価になるのは、開放端で両端点に内部とは異なる磁場があり異方性のある1次元XY模型である。また、相互作用がrandomに変化する場合にも等価性が成り立つことを導いた。この結果は論文としてまとめ投稿中である。 開放端の2次元Ising模型は、finite-size scalingやsurface tensionに関連して調べられてきた。等価な開放端のXY模型はJordan-Wigner変換によって解くことができ、この2次元 Ising模型の厳密解の別の導出が得られたことになる。 また、Ising型模型の零磁場の量子帯磁率については、それを計算するための一般式が得られている (Minami 1998)。これを基礎にして、ランダムな相互作用を持つ1次元スピン1/2 Ising模型の量子帯磁率を積分表示で書き、相互作用の確率分布のモーメントで展開した。1次元Ising模型に対するランダム性の効果は、古典的な量に関してFan and McCoy による結果があるが、今回の結果によって量子効果を含む量についてランダム性による支配的な効果が厳密に求められた。展開の一般項はBernoulli数を利用して書き下すことができる。 この結果はスピンの大きさが一様でない場合に拡張できる。特に偶数サイト上にスピン 1/2が、奇数サイト上に一般のスピン Sがある1次元鎖については実際にこの系の量子帯磁率を求めた。結果の定性的な側面は上記の場合と同じである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ising模型は生物系の基本的な問題である細胞選別の数理モデルにそれぞれの次元で等価である。細胞選別とは、2種類の異なる細胞を混ぜておくと適当な条件の下でそれらが自発的に凝縮し細胞塊を形成する現象であり、生物の器官の形成における基本的なプロセスのひとつであると考えられている。このIsing模型のうち2次元Ising模型と等価である1次元のXY模型は、hard-core相互作用を持つbose粒子の一般化されたrandom walkを生成する。上記の結果は、2次元の細胞選別と1次元のrandom walkの間に、可解なスピン模型を経由して共通の数理構造があることを示そうとする過程の中でられた。実際の細胞選別は周期的ではなく開放端の条件の下で起こり、また現実のゆらぎに対応してランダム性が現れる。上記の等価性に関する結果は2次元細胞選別と1次元random walkの等価性を開放端でランダム性を含む場合に拡張したもので、またランダム性のあるIsing型模型の量子帯磁率に関する結果は、対応する1次元系でのランダム性と量子効果に関する厳密な結果であり、スピン格子模型のうち生物系に対応した領域で得られた新しい結果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
Ising模型、磁場と異方性のあるXY模型、量子群的なXXZ模型の関係を調ベることは、細胞選別、random walk、mRNA上のリボゾームの数理的関係を調ベることになる。上記の等価性の応用として、ランダム性のある1次元量子系を引き続き詳細に調べる。また非平衡系における数少ない可解な模型であるASEPは、実はmRNA上を移動しながらアミノ酸からタンパク質を合成するリボゾームの運動の数理モデルでもあり、またこれは量子群のgeneratorと可換なXXZ模型にも他ならない。つまりこれらの模型は、スピン模型として重要であるとともに生物系としても意味のあるもので、これらのランダム性のある1次元XY模型、Ising模型とASEPとの関係を引き続き調べ、生物系として意味のある結論を目指したい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の推進方策に対応して、初年度と同じ方針で研究費を使用する。すなわち、議論と情報交換のための研究打ち合わせ、および情報収集と成果発表のための研究会への参加のための旅費、発表と研究上の道具としてのノートパソコン、ソフトウェア、メモリ等の情報機器の購入。情報収集のための図書の購入。論文投稿のための英文校閲と投稿料。数値計算が必要になる場合には計算費を使用する可能性がある。比率は、旅費が60%、情報機器が15%、図書が15%、論文投稿関係費用が10%程度を予定している。
|
Research Products
(2 results)