2012 Fiscal Year Research-status Report
冷却原子気体を用いた量子可積分系の非平衡過程に関する実験的研究
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24654131
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木下 俊哉 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (80452259)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 可積分系 / 1次元ボース気体 |
Research Abstract |
2体相互作用している1次元ボース気体は可積分性を有する量子系であるが、3体衝突やトンネリングにより1次元系同士が互いに結合すると可積分性が崩れると考えられている。H24年度は3体衝突の効果の簡単な考察とトンネリング以外の結合手法の開発を試みた。ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)したRb原子気体を、2次元光格子内に誘導し、独立した1次元ボース気体を生成、その1次元系の軸に沿ってブリージィングモードと双極子モードという2つの集団振動を各々独立に励起し、それらのダンピングについて調べた実験結果の理論的考察を行った。ブリージィングモードは密度の圧縮を伴い、さらに衝突エネルギーも高くなることから、3体衝突の起こる確率が増え、これらが2体原子間衝突のみでは散逸することがない1次元系において、より速い振動のダンピングに関与しているのではないかと考えている。次に、強度の非常に強い2次元アンチドット型光格子の生成を試みた。アンチドット型光格子では、ポテンシャル極小が連結しており、基本的には原子は局在しないはずであるが、ビーム強度が非常に強いと連結部分のトラップが極めてタイトなり、この部分の原子は周囲に比べて高いエネルギー状態になるため、閉じ込めが緩くなったカスプ状の中心部分に原子は集まり、縦方向には棒状に広がる。これは、上記の1次元系と状況は異なるが、擬似的に1次元系とみなせる可能性があり、ビーム強度により連結部分の原子の通過を制御し、1次元系間にトンネリングとは異なるカップリングの手法として利用できるが。実験では、上記のカスプ状の中心部に原子が局在していると思われる実験結果が得られたが、この系がどの程度“1次元性”を有しているのかという定量的な評価やその制御の手法の開拓にまでは至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2当初の計画では、2光子ラマン遷移を用いた原子気体の運動量分布の測定を行うことを予定していたが、H24年度の実験では、この手法で運動量分布を詳細に測定したわけではなく、従来通りの手法である飛行時間計測法や原子波干渉を利用した。これらは簡便であり、最初のステップとしては有力な方法であるが、3体衝突の効果やトンネリングの影響を詳細に調べるには十分とはいえない。また、H24年度の途中、BECが生成される交差型光双極子トラップに使っているファイバーレーザーが故障し、BECが生成できない状況となった。原子気体による1次元系はBEC生成を基盤としているため、BECの回復に向けてかなりの時間と労力を費やせざるを得なくなった。新たなイメージング系の構築や擬似的な1次元系生成の試みなどが行えたのは収穫ではあるが、トンネリングの制御、擬似的な1次元系間のカップリング制御など、進めたかった課題が達成できなかったのは残念である。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度4月現在、代替の光源としてDBRレーザーが準備でき、間もなくBECによる実験を再開できる見通しである。速度に敏感な2光子ラマン遷移を用いた運動量分布測定法の開発は、十分冷却された原子気体であればBECでなくても、また1次元系でなくても可能であるので、下記に記した実験計画と並行してその開発を進める予定である。 本研究での1次元系は、閉じ込めの強さなどが全く同質である多数の1次元チューブの束からなるが、国内の研究会等でKAM(コルモゴロフ=アーノルド=モーザー)理論の検証や再帰現象の観測には、トンネリングにより結合する1次元系の本数をかなり少数に絞るこむ必要があるとの指摘を受けた。そこで1次元系のチューブの本数を、結合する方向には5本以下、しない方向にはSN比の確保のためこれまで通り多数となるよう、ビーム強度や配置を工夫する。 非平衡な運動量分布の生成には、予定通り1次元系の軸方向にパルス的に光を照射し、ラマン=ナス散乱による原子の回折を利用するほか、H24年度と同じくブリージィングモードや双極子モードなどの集団励起も試みる予定である。非平衡の状態の生成後、その後の時間発展を飛行時間計測法と新たに開発する2光子ラマン遷移による手法で運動量分布を測定し、結合した1次元の全系に分散したかに見えた運動量分布の再帰現象の有無、閾値の存在などを検証する。結合の強さを変えるツールとして、光格子ビーム強度の制御と光格子の高速シェイキングを行い、1次元系間の結合(トンネリング)の制御を行う。また、高強度のアンチドット内で生成している可能性が高い“擬似的な1次元系”がどの程度1次元性を有しているのか、ドット間の原子の通過が制御使えるのかなども確認する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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