2013 Fiscal Year Research-status Report
ミクロシミュレーションによる多孔性高分子膜合成への挑戦
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24654137
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長岡 正隆 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (50201679)
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Keywords | 高分子・液晶 / 化学反応シミュレーション |
Research Abstract |
H25年度は、可視化アプリケーションによる構造調査に基づいて、水とイオンの透過性の評価に関する研究を推進した。 平成24年度に確立した膜重合モデリング法を適用して、MPDとTMCの組成比の変化に応じた、4つ(1:4, 1:1, 3:2, 4:1)のFT30膜の全原子モデルを作製した。各比率におけるFT-30膜の高分子架橋度(DPC)及び炭素、酸素、窒素の組成比を、対応する実験値と比較した結果、比率1:4と1:1の結果が、それぞれX線光電子分光法(XPS)とラザフォード後方散乱法(RBS)による実験結果に近いことが分かった。その中から典型的な特性をもつ膜に対して、水とイオンの透過性を評価した。このFT-30膜において、水が浸透する領域の大部分は、内部活性領域である。MPD分子とTMC分子の比率が1:1である膜モデルが、この内部活性領域に対応することが分かった。 そこで、我々は、この比率の膜モデルから作製したスラブ膜モデルとそれを両側から挟むバルク水を配置したモデル系を作成して、水の拡散シミュレーションを実行した。スラブ膜モデルに水分子を浸透させて得られた計算結果は、内部活性領域の複雑な立体構造の影響を大きく受ける。ところが、DPCそして組成比の一致に加え、膜内とバルク水領域における水の質量密度そして分配係数が実験値と定量的によく一致した。したがって、本計算の密度や分配係数の一致は、混合MC/MD反応法によって作製された膜モデルが、その実際の立体構造を十分に再現していると考えられる。さらに、こうして得られる水とイオンの透過性に関する非平衡・非定常情報についての予測結果を実験結果と比較吟味した。H25年度までの中間的な報告を第17回理論化学討論会において発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度計画で予定した内容に沿って進展しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、おおむね当初の予定通り、次の各内容を実施する。 (1)逆浸透膜の微細構造解析: 本研究では、電子顕微鏡やX線光電子分光法などの実験研究において活発に議論されてきた膜の微細な架橋構造や襞構造に対して、ミクロな解釈を与え生成機構を説明することが大きな課題となる。とくに平成26年度には、①化学結合パターン、②クラスターサイズ分布、③空孔サイズとその分布などを解析する。そのために重合反応系の非平衡非定常な時空パターンについて、大規模コンピュータ計算が必要となり、その計算結果の解析と可視化による解明が重要となる。従って、初年度より開発してきたコンピュータ・プログラムを、マルチコアコンピュータシステムを用いて、汎用性のあるシステムとして開発する。 (2)逆浸透膜の表面襞構造形成メカニズムの可視化解析: さらに、得られる数値データをグラフ化して解析したり可視化したりする目的のために、申請研究予算で購入予定のグラフィカルPCシステムも用いる予定である。本年度最後には本研究で得られた知見に関して適当な学術誌に発表し、さらに最終的な報告を適当な学会において発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24-H25年度の2年間にわたる膜重合モデリングの研究を行ってきた結果、混合MC/MD反応法のプログラム開発における素反応スキームと定常状態近似等をより明確に評価する必要性が生じた。そのため、H26年度に、それらの調査と整理をするためのパートタイム技術補佐員の雇用費を確保するために次年度使用額が必要となった。 H26年度に、素反応スキームと定常状態近似等の調査と整理をするために、H25年度中に生じた消耗品費等における予算額と執行額との差額分をH26年度の研究活動予算に組み入れて、実質的な情報収集及び整理を目的としたパートタイム技術補佐員を雇用して有効的に執行することを計画している。
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