2013 Fiscal Year Research-status Report
人工放射性核種を水文学的トレーサーに用いる火口湖の物質循環に関する研究
Project/Area Number |
24654156
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
木川田 喜一 上智大学, 理工学部, 准教授 (30286760)
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Keywords | 火山 / 火口湖 / 草津白根山 / 放射性セシウム / 福島第一原子力発電所事故 / 水文学的トレーサー |
Research Abstract |
2012年度から2013年度前半にかけて確立した放射性セシウムおよび安定セシウム定量法を適用し,群馬県草津白根山の山頂火口湖の湖水と火口内底質に含まれる放射性セシウムならびに安定セシウムの定量値データの蓄積を進めた.特に2013年度は草津白根山で最大の火口湖「湯釜」に着目し,福島第一原子力発電所事故後の湖水中放射性セシウムの濃度変化を明らかにすることを主題とした.この結果,湯釜湖水中のCs-134およびCs-137は,その放射性核種としての物理的半減期とは異なる割合で湖水中から消失しており,物理的半減期の補正を行った場合,両核種はほぼ等しく,放射壊変に依存しない約500日の半減期で湖水から失われいると見積もられた.一方,湖水中の安定セシウムは大凡一定の濃度を保持しており,ほぼ定常状態にあることが明らかになった.また,従来より湯釜湖水は採水場所に依らずにきわめて均質な化学組成を示すことが知られているが,2013年8月に火口湖の湖水の均質性を確認する採水調査を行ったところ,直径約300 m,最大深度21 mの火口湖の湖水が,放射性セシウムについてもきわめて均質であるとの結論に至った. 湯釜湖水に対して得られた放射性セシウムの500日の湖内半減期は,水圏に沈着した放射性セシウムは底質への吸着・移行により速やかに水層から除去されるとの従来的予測に反してきわめて長いものである.他方,湯釜に隣接する他の火口湖の湖水においては,より速やかな放射性セシウムの消失を窺わせる結果も得られており,湯釜湖水の遅い放射性セシウムの消失速度は湖水が強酸性であることに加え,「湯釜火口」独特の水循環を反映した結果であると思われる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
火口湖湖水中の放射性セシウムおよび安定セシウムの定量方法の確立はすでに終えた.これまでに得られた結果は,草津白根山火口湖湖水において,福島第一原子力発電所事故から数年間にわたる放射性セシウム濃度の長期的変化を得ることが可能であることを示している.定量誤差を踏まえると,湖水中の放射性セシウム濃度は少なくとも「湯釜」火口湖においては2011年から2013年末にかけて時間に対してほぼ一定の比率で漸減していると見なせることから,定常的な湖水の流動・循環に依存した濃度変動が現れているものと考えられる.これは本研究課題の根幹となる,放射性セシウムを活動的火口湖の水文学トレーサーとしての利用が可能であることを強く支持するものである.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)草津白根山山頂域での水収支・循環モデルの構築に資するため,さらに火口湖の湖水を中心に,山頂域の各種試料における放射性セシウムの分布と時間変化に関するデータを蓄積する. (2)火口湖湖水の放射性セシウムを水文学的トレーサーとして利用するにあたり,湖水と底質との間のセシウムの分配挙動がきわめて重要な因子であるため,湖水と底質を用いた固液分配試験を実験室で実施し,底質による湖水からの放射性セシウムの除去プロセスを定量的に評価する. (3)これまでに提案されている草津白根火山の種々の水収支のモデルと,当該研究による火口湖の放射性セシウムの中長期的濃度変化を組み合わせて,山頂域での水収支を再計算し,特に火口湖底を介した水収支を明らかにする.
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