2012 Fiscal Year Research-status Report
太古海洋環境を理解するための温泉微生物マットのキャラクタライゼーション
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24654163
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
狩野 彰宏 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (60231263)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ストロマトライト / トラバーチン |
Research Abstract |
温泉環境での微生物マットは始生代~原生代の地層に残された微生物作用の痕跡を解く鍵である。マット内での微生物-水-鉱物の相互作用は,培養実験により評価されるべきだが,温泉における水環境を再現し,微生物群集組成を維持するのは困難である。そこで,本研究では炭酸系温泉に発達するトラバーチンに焦点を絞り,その表面に生息する微生物群集の代謝効果を現地で観測した微環境プロファイルと溶存成分フラックスから評価することを目的とする。今年度は,大分県長湯温泉等において,トラバーチン表面に発達する微生物マット内での微環境プロファイルを作成し,あわせて,マット試料への溶存成分フラックスを測定した。その結果,シアノバクテリアの光合成が微環境において過飽和度を高めていることを観測した。学術研究員を3ヶ月間雇用し,トラバーチンの組織観察と微生物群集解析を行った。クローンライブラリー法を用いた遺伝子解析の結果,トラバーチン環境に生息するシアノバクテリアが,高い走光性を持つ種によって占有されていることが分った。また,雇用した学術研究員が中心となって,本研究に関連する内容の2つの論文を国際誌に執筆した。さらに,炭酸塩鉱物の沈殿速度が二酸化炭素の脱ガス速度に大きく依存することを見いだし,独自に開発した装置を使って,脱ガス速度を測定した。この成果は,複数の学会で公表しており,現在,論文を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
微環境プロファイルを観測するための装置開発が遅れ,本格的な観測研究に入ったのは9月以降になってしまった。しかし,長湯温泉で実施した観測結果は予想していた光合成誘導沈殿を明確に実証した。また,研究の課程で「炭酸塩鉱物の沈殿速度が二酸化炭素の脱ガス速度に大きく依存する」という新たな知見を見いだした事で,観測研究開始の遅れを十分に取り戻す成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度使用しなかった補助金を繰り越すことで,長期間の学術研究員の雇用が可能になった。この状況を生かし,微生物学的な検討を中心に行う。まず,マット内の微生物種を遺伝子の塩基配列から特定する。堆積場での微生物群集を変質させないために,凍結保存した試料を速やかに無菌環境下で粉砕する。次に,粉末試料に,プライマー・ポリメラーゼ・デオキシヌクレオシド三リン酸を添加し,PCR装置を用いて,遺伝子(16Sr DNA)を増幅する。増幅された遺伝子は株ごとにシーケンシングされ,得られた塩基配列情報を,データベース (GenBank 等)と比較し,微生物マットを構成する微生物種を特定する。 次に,検出された微生物の空間分布とバイオマスを遺伝子蛍光プローブ法で評価する。この方法は,微生物群集に占める特定の細菌グループの割合を定量的に評価することができるため,微生物群の解析に広く利用されている。 さらに,中国とオーストラリアで採集した始生代~原生代のストロマトライトの組織的検討も行う。特に,硅化した試料では微生物の痕跡が残されている可能性があり,それをトラバーチンと比較する事で,ストロマトライトの縞状組織の形成プロセスを特定できるかもしれない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は以下の項目に使用する。 物品費:遺伝子解析,試料観察,化学分析に持ちいる消耗品。 旅費:インドネシア国スマトラ島の大規模トラバーチンの海外調査。大分県長湯温泉,秋田県奥々八九郎温泉などへの国内旅費。学会発表のための国内旅費 雇用費:学術研究員の雇用(9ヶ月間を予定)
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[Journal Article] Processes forming daily lamination in a microbe-rich travertine under low flow condition at the Nagano-yu Hot Spring, Southwestern Japan2013
Author(s)
Okumura, T., Takashima, C., Shiraishi, F., Nishida, S., Kano, A.
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Journal Title
Geomicrobiology Journal
Volume: 30
Pages: 910-927
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Textural transition in an aragonite travertine formed under various flow conditions at Pancuran Pitu, Central Java, Indonesia2012
Author(s)
Okumura, T., Takashima, C., Shiraishi, F., Akmaluddin, Kano, A.
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Journal Title
Sedimentary Geology
Volume: 265-266
Pages: 195-209
DOI
Peer Reviewed
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