2012 Fiscal Year Research-status Report
ラテライト形成過程と表層環境の地球史進化:鉄・三種酸素同位体の地球化学からの視点
Project/Area Number |
24654164
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
山口 耕生 東邦大学, 理学部, 准教授 (00359209)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ラテライト / 鉄 / 酸素 / 原生代 / 南アフリカ / ボツワナ |
Research Abstract |
約22億年前に発達したラテライト質風化断面を対象に、形成時の水の働きと大気化学の痕跡を解明することを本研究の主目標とする。そのため、鉄同位体に関する既発表論文を基盤に、ラテライト鉄酸化物の酸素同位体比を測定し、ラテライトの鉄-酸素の安定同位体地球化学のレファレンスとなるデータセット構築を行い、ラテライト形成の定量的モデル構築を行う。これにより、地球史を通じたラテライトの形成に関する鉄と酸素の同位体地球化学の突破口を切り拓き、地球表層環境の進化に関する重要な知見を得る。 本研究は地球史初期の表層(大気-大陸-海洋システム)環境の進化を探る上で重要であり、研究の意義は大きい。「地球史を通じてラテライト形成過程は不変である」ことを示すことができれば、現世のラテライトの形成(特に鉄の溶脱)に必須である陸上生命活動を起源とする有機酸が、太古のラテライト形成(または一般に大陸風化)においても重要であったとの示唆が可能となる。つまり、地球史の初期における微生物生命圏の進化を探る上でも、本申請研究は深い示唆に富むものになる。 2012年度は、約22億年前のボツワナ産のラテライト試料(Yamaguchi et al., 2007; EPSL)の酸素同位体測定の一部を行った。まだデータ量が不十分であるが、予察的な結果より、ラテライト質風化断面に関する鉄同位体比対 酸素同位体比の負相関を発見した。つまり、水―岩石相互作用、すなわちラテライト化作用が強い部位ほど54Feが溶脱して56Feにより富み、降水の影響下で形成する2次鉱物は18Oに枯渇する、ことが言える。以上が研究実績の概要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2007年度に本研究の研究代表者が発表した論文(Yamaguchi et al., 2007; Earth Planet. Sci. Lett.)では、約22億年前のボツワナ産のラテライトの形成過程は現在のものと大きく違わず、鉄に関して開放系(Open System)であったことを報告した。一方、先行研究であるYang and Holland (2000)では、約22億年前のボツワナ産のラテライトの風化断面(元素の鉛直プロファイル)は貧酸素環境で形成したとした。その主張は同位体地球化学の観点から見るとサポートされない、つまり誤りであることをYamaguchi et al. (2007)が指摘した。そこでは、風化断面での元素の出入りを正確に見積もるためには、元素の量を見るだけでは不十分で、同位体の変化量を用いる必要性を説いた。 鉄同位体だけではなく、酸素同位体の地球化学を展開する本申請研究では、予察的なデータから、以上のように、ラテライト質風化断面に鉄同位体比対酸素同位体比の負相関を発見した。つまり、水―岩石相互作用、すなわちラテライト化作用が強い部位ほど54Feが溶脱して56Feにより富み、降水の影響下で形成する2次鉱物は18Oに枯渇する、ことが言える。このことは、当初の研究計画で予想していたことであり、仮説の証明に近づいたと言える。よって、3年計画の本申請研究において、2012年度の進捗状況は順調であり、満足の行くものであると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度以降も、引き続き、試料の酸素同位体比の測定に務める。新たに取得したデータを含め、数値モデル計算(e.g., DePaolo, 1981)を行い、約22億年前のラテライト形成時には水/岩石比 が 10,000~100,000程度であり、現代のラテライトの形成時のものと同程度であることを示したい。次に、ラテライト質風化断面の酸素同位体組成値から計算した水-岩石相互作用時の水の酸素同位体組成から、ラテライト形成場の古緯度を見積もり、現代の (亜)熱帯域に相当することを示したい。さらに、約22億年前の海洋の酸素同位体組成が 0 ‰であったことも示したい。これは、当時の海水の温度が現代と同程度であることを支持するものとなりうるものであり、重要である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度以降の研究費は、主に酸素同位体組成の測定、および得られた研究成果の発表のために使用したい。 研究上の課題としては、そもそもラテライトは地表に露出する岩石が風化を受けて、すなわち岩石―水の相互作用の結果を受け、形成する。そうであるならば、予想していたように大気の酸素同位体組成は岩石に反映されず、ラテライト形成に寄与した雨水や地下水の酸素同位体組成が圧倒的に反映されることになる。そこで、17Oの存在量を測定するプランは、測定そのものは可能であるものの、変更の必要がある。むしろ、ラテライト試料に含まれる微量元素に着目し、上記の主張のさらなるサポートとなりうるか、あるいは反証となるか、注意深く検証したい。 なお、前年度である2012年度の予算執行においては、203,487円の不使用分が生じてしまった。これは以下の理由によるものである。酸素同位体の依頼分析費用に充てたこの金額だが、データの納品が、当初の予定の2013年1月中旬ではなく、分析会社の都合により2013年5月となってしまい、年度を跨いでしまった。これが理由で、2012年度分からの執行が物理的に出来なかった。なお、データ納品が済んだ現在では、同額の執行が直ちに可能となっていることを申し添えておく。これにより、2013年度の予算は当初の予定通り90万円であり、この額に増減は生じない。
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[Journal Article] ateral variations in the lithology and organic chemistry of a black shale succession of the Mesoarchean Dixon Island Formation in the coastal Pilbara Terrane, Western Australia: Influence by syndepositional hydrothermal activity.2012
Author(s)
Kiyokawa, S., Takashi, I., Ikehara, M., Yamaguchi, K.E., Koge, S., and Sakamoto, R.
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Journal Title
Island Arc
Volume: 21
Pages: 118-147
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Effects of tides and weather on the sedimentation of iron-oxyhydroxides in a shallow-marine hydrothermal environment at Nagahama Bay, Satsuma Iwo-Jima Island, Kagoshima, southwest Japan2012
Author(s)
Kiyokawa, S., Ninomiya, T., Oguri, K., Ito, T., Ikehara, M., Nagata, T., and Yamaguchi, K.E.
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Journal Title
Island Arc
Volume: 21
Pages: 66-78
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Biogeochemistry of C, N, S, Fe, and Mo and origin of organic matter in the 3.2 and 2.7 Ga sulfidic black shales from Pilbara, Western Australia: A synthesis.
Author(s)
Yamaguchi, K.E., Abe, A., Kobayashi, Y., Kobayashi, D., Nakamura, T., Ikehara, M., Haraguchi, S., Sakamoto, R., Naraoka, H., Kiyokawa, S. and Ito, T.
Organizer
American Geophysical Union, Fall Meeting
Place of Presentation
San Francisco
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[Presentation] Redox stratification of the ocean 2.7 billion years ago: Preliminary results from Fe speciation analysis of shallow- and deep-facies black shales.
Author(s)
Abe, A., Yamaguchi, K.E., Haraguchi, S., Naraoka, H., Naito, K., and Yahagi, T.R.
Organizer
American Geophysical Union, Fall Meeting
Place of Presentation
San Francisco
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[Presentation] Marine sulfur cycle constrained from isotope analysis of different forms of sulfur in the 3.2 Ga black shale (DXCL-DP) from Pilbara, Australia
Author(s)
Kobayashi, Y., Yamaguchi, K.E., Sakamoto, R., Naraoka, H., Kiyokawa, S., Ikehara, M., and Ito, T.
Organizer
American Geophysical Union, Fall Meeting
Place of Presentation
San Francisco