2012 Fiscal Year Research-status Report
造礁性サンゴ骨格の窒素同位体比を用いた貧栄養海域における新たな栄養塩指標の開発
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24654178
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡邊 剛 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (80396283)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
波利井 佐紀 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (30334535)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | サンゴ骨格 / 幼サンゴ / 窒素同位体比 / 栄養塩 |
Research Abstract |
サンゴ礁は貧栄養海域に広く分布し、豊かな生態系を育んでいる。造礁性サンゴをはじめとするサンゴ礁の生物は、貧栄養環境で何処から栄養を取り入れているのか、サンゴ骨格の化学分析から明らかにできる可能性がある。造礁性サンゴ骨格の窒素同位体比はサンゴ礁の栄養塩の濃度、起源を示す指標になりうる。この指標を定量化することにより、 造礁性サンゴ骨格を貧栄養海域における栄養塩記録計として用いることが可能となる。本研究では幼サンゴの飼育中に15Nで標識した窒素起源物質(溶存無機態窒素、溶存有機態窒素)を、それぞれ濃度を変えて添加し、初期に形成した骨格の窒素同位体比を測定する。それぞれの起源物質がサンゴ骨格の窒素同位体比の値にどのように反映されるか、また窒素起源物質の濃度とサンゴ骨格の窒素同位体比の関係式を導出し、古環境指標としての確立を目指す。本年度は琉球大学瀬底研究施設において、造礁性サンゴが採卵し、受精させて得られた幼生を定着、石灰化させるための基礎実験を行った。さらに、定着した幼サンゴが石灰化を行い初期骨格が形成される過程において、窒素化合物の形態が異なる環境下で飼育を行い、その骨格を採取した。採取した骨格を北海道大学へ持ち帰り、窒素同位体比分析に向けての前処理方法の検討を行った。本年度の対象種としては外界より共生藻類を獲得するサンゴ種(ミドリイシ属サンゴ)を用い、来年度は親から直接共生藻を受け継ぐサンゴ種(ハナヤサイサンゴ)を飼育し、その結果を比較する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は琉球大学における飼育実験に成功し、初期石灰化骨格を得ることができた。窒素同位体比分析は現在、手法開発を終了し、初期石灰化骨格分析のための基礎実験を行っており、次年度のはじめに行う予定である。研究計画はほぼ予定通りで遂行できており順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底臨海実験所において、親から直接共生藻を受け継ぐサンゴ種(ハナヤサイサンゴ)の受精卵を得る。ハナヤサイサンゴの受精卵が多く得られない場合は、培養して増やした共生藻を初年度と同じサンゴ種に共生藻を与えてから、飼育を行う。15Nで標識した硝酸を、それぞれ濃度を変えて人工海水に添加し、それぞれの飼育容器にて飼育を開始する。初年度に最も骨格形成を促した手法を用いて誘発剤や基板材を適宜加えながら、プラヌラ幼生を定着させ、石灰化をさせる。得られた幼サンゴと海水を、幼サンゴは凍結させ、海水はフィルターで濾過した後に冷蔵で、北海道大学に持ち帰り、それぞれの幼サンゴ試料から骨格部位と軟体部を分離して、窒素同位体比を測定のための前処理を行う。15Nトレーサーが骨格中に保存されているかを検証するため、東京大学大気海洋研究所に設置されているナノシムスを用いて骨格の微小領域における窒素の保存状態を確認する。そして、名古屋大学においてサンゴ骨格の窒素同位体比分析を行い、その測定結果とサンゴ骨格中に保存される硝酸起源の窒素の割合、飼育中の硝酸濃度の違いからサンゴ骨格に記録される窒素同位体比と硝酸濃度の関係式を導出し、栄養塩計を確立する。その後、得られた知見を、サンゴ骨格の窒素同位体比を用いた古環境復元に応用するとともに、国内外の学会や学術会議における発表、地元の成果報告会、勉強会などを開催するなどして広く普及する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も引き続き琉球大学における飼育実験を行うため、北海道大学から研究代表者および研究協力者の出張旅費(14日分)を計上する。また研究打ち合わせ旅費として、琉球大学から北海道大学へ研究分担者および研究協力者の出張旅費(7日分)を計上する。そして、本研究で得られた成果を公表するため、学会への参加費および札幌から学会開催地である沖縄までの旅費を計上する。また、本年度の飼育実験に必要な消耗品、安定同位体標識を購入する。札幌ー沖縄間の実験道具および顕微鏡輸送費も計上する。さらに安定同位体分析に必要な消耗品、薬品も購入する。
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