2012 Fiscal Year Research-status Report
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24654184
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Research Institution | Quantum Chemistry Research Institute |
Principal Investigator |
中嶋 浩之 特定非営利活動法人量子化学研究協会, 研究所, 部門長 (80447911)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | シュレーディンガー方程式 / ディラック方程式 / Non-BO計算 / 星間分子 / イオン種の励起状態 |
Research Abstract |
星間分子の織り成す「宇宙の化学反応」では、水素関連化合物: H2+, H3+, H5+やCH+, CH3+等がその化学反応の分岐点となるキー分子として知られている。しかし、これらの星間分子は地球上では不安定なイオン種であり、一般に通常の環境下での実験が困難である。一方で、天体望遠鏡観測技術や極低温科学技術の発展による精密測定も可能となっており、高精度な理論的研究が求められている。本研究では、シュレーディンガー方程式ならびに相対論ディラック方程式を正確に解く理論として定式化された理論的手法を用い、上述の星間分子種の超精密波動関数の計算を行った。特に、水素原子関連化合物では、軽い水素原子核の量子効果を無視することができないため、精密なNon-Born Oppenheimer(Non-BO)計算を行う必要がある。まず、最も簡単な水素分子イオン: H2+に対し精密なNon-BO計算を行い、電子励起、振動励起、回転励起、重水素置換同位体効果、に対応する波動関数を極めて高精度に求めた。特に、Non-BOレベルでの電子励起や回転励起状態の精密な理論研究はほとんど行われておらず、これらは観測及び実験のスペクトルと直接比較可能なデータベースとなり得る。Non-BO計算では、核と電子の運動がカップルするため、化学反応の理解に重要なポテンシャルカーブが損なわれるが、我々はNon-BO波動関数からポテンシャルカーブを求める手法を提案した。水素分子クラスター等の複雑なポテンシャル面への応用が期待できる。一方、H3+, H5+やCH+, CH3+等、その他の星間分子種の精密計算を行った。これらは、BO近似レベルでの計算ではあるが、既存の量子化学理論で得られる解より遥かに高精度な解を得ることができた。今後、極低温科学の実験家らとの共同により、様々な物性の理論的解釈と予測の研究に繋げていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度に計画していたいくつかの星間分子種の高精度計算はほぼ遂行することができた。また、核の運動効果を取り入れたNon-BO計算では、当初は計画していなかった方法論的開発も行うことができ、全体として「②おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度までにいくつかの星間分子種の高精度計算を行ったが、今後は天文学の観測家や極低温科学の実験家と共同研究を行うことで、理論的研究により得られた成果を還元することを考えていく。観測または実験で得られる精密スペクトルや様々な物性(物理量)と対応させることで、それらへの理論的解釈だけでなく理論的予測へと繋げられるよう方法論をより一般化し整備する。それにより、宇宙の物質科学でキーとなる様々な物理現象(星間分子種の反応論、極低温・超強磁場等の極限環境下での物性科学)への応用を考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度に、設備備品として計算機クラスタ(Xeon CPU 16コア)を1台購入した。次年度は、この計算機と研究所に既設の計算機を継続的に利用し、本研究で目的とする様々な系の計算を行うため、計算機の電力使用料金と設置場所の賃料が必要である。また、天文学者や実験家等の共同研究者と直接の議論を行うための旅費と、関連学会への参加費と旅費を計上する。また、成果を積極的に公表していく予定であり、論文投稿費が必要である。
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