2013 Fiscal Year Research-status Report
水溶液中において生体分子の赤外吸収スペクトルを測定する試み
Project/Area Number |
24655006
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
酒井 誠 東京工業大学, 資源化学研究所, 准教授 (60298172)
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Keywords | 水溶液 / 赤外分光 / 生体分子 / 超解像 / ローダミン6G |
Research Abstract |
水は極めて強い赤外吸収を有するため、通常の赤外分光測定で希薄な水溶液中の溶質分子の赤外吸収を得ることは不可能である。本研究課題では、赤外超解像顕微鏡法の高感度かつ高空間分解能の特性を利用して、水溶液中における溶質分子の赤外振動情報を測定できないかと考えた。具体的には、顕微鏡条件下において、試料セル表面のごく近傍(5マイクロメートル以下)の領域に赤外光を集光し、さらに可視光を入射することで生じる過渡蛍光の検出を試みる。赤外の光路長が極めて短いため、水の強い赤外吸収に妨害される前の信号抽出が期待される。 研究期間中において、まず第一に、共焦点型ピコ秒赤外超解像顕微鏡の構築を行った。基本となるのは赤外超解像顕微鏡法であり、ピコ秒赤外光及び可視光を同軸・同方向からレーザー蛍光顕微鏡光学系に導入し、対物レンズを通して試料セルの表面近傍に集光した。対物レンズは中赤外波長領域の透過率を確保するために反射対物レンズを用いた。試料から生じる過渡蛍光は同じ対物レンズで集めて、共焦点光学系のピンホールを通した後に光電子増倍管で検出した。試料位置は3次元で走査され、蛍光強度を位置の関数として記録し、3次元断層像を得ることが可能な装置とした。構築した共焦点型ピコ秒赤外超解像顕微鏡を用いて、水の振動共鳴条件下(3 µm帯)におけるローダミン6G分子の過渡蛍光(赤外情報に相当)の検出を試みたところ、過渡蛍光の検出に成功した。この装置の深さ方向の空間分解能は、およそ2µm程度であり、セル表面ごく近傍のみの領域のみを赤外超解像顕微鏡観察することで、水の振動共鳴条件下においても溶質分子の赤外情報の抽出が可能であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において、水の振動共鳴条件下(3 µm帯)におけるローダミン6G分子の過渡蛍光(赤外情報に相当)の検出を試みたところ、過渡蛍光の検出に成功した。この装置の深さ方向の空間分解能は、およそ2µm程度であり、セル表面ごく近傍のみの領域のみを赤外超解像顕微鏡観察することで、水の振動共鳴条件下においても溶質分子の赤外情報の抽出が可能であることが明らかになった。これは画期的な成果といえるが、まだ、本研究課題で最終目標としていた生体分子への適用には至っていない。これについては26年度も延長して研究を続ける過程で達成したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は研究の推進方策として、赤外吸収スペクトル測定を試みる。過渡蛍光検出赤外分光法は赤外波長が溶質分子の振動に共鳴した時だけ蛍光が観測される。即ち、赤外光の波長を掃引することで赤外吸収スペクトルの測定が原理上可能である。実際には、水の赤外吸収の影響を完全に除去することは難しいが、空間分解能が極限のナノスケールまで達すれば強度補正によって赤外スペクトルを得ることが可能と考えられる。また、赤外波長領域を生体分子の構造解析に欠かせない、6-9µmの中赤外域まで拡張することは必須と考えている。赤外超解像顕微分光法では、赤外波長を中赤外域まで拡張しても空間分解能の低下は起こらないと予想されるため、中赤外域でも過渡蛍光信号の観測が期待される。 加えて、上記の測定を生体分子に適用して測定を行う。特に、蛍光タンパク質のクロモファーであるフラビン分子等に適用する。 なお、本研究によって得られた成果は、国内外の学会で発表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、反射対物レンズ使用時に試料位置を参照するための安定光源として、CWグリーンレーザーを購入し、研究推進する計画であった。当初は8月までに購入を終え、研究を遂行する計画であったが、機種選定に手間取り、購入時期が11月までずれ込んでしまったため、平成25年度内に当初研究目標達成が困難になった。よって、研究期間を1年延長し、当初研究目標達成、さらには目標を遥かに上回る研究成果を実現する。 未使用額は、主に、平成25年度に購入したCWグリーンレーザーを実験光学系に組み込み検出感度、S/N比を最適化するために必要な、対物レンズ、ミラー、バンドパスフィルターといった光学系構築用の消耗品購入費に当てる。また、1年間の期間延長により、当初研究目標を上回る多くの成果を実現する予定なので、未使用額の一部は、国内外の学会において成果発表を行うための費用に当てる。
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