2012 Fiscal Year Research-status Report
生体組織深部での非線形分光計測を目指した超短パルス光波面制御法の開拓
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24655017
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
太田 薫 神戸大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (30397822)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 波面制御 / 超短パルス光 / 非線形光学効果 / 時空間制御 |
Research Abstract |
複雑不均一系では空間的な構造も多種多様であるため、空間分解能を有した分光計測が必須である。しかし、光学顕微鏡は可視光や近赤外光を使うため、生体組織深部などの現象を観測する場合、多重散乱や光の拡散が起こり、これまでの手法を適用することが困難となる。本研究では、超短パルス光の振幅や位相を時間、空間領域で同時に波形制御する方法論の確立に挑戦する。レーザー光の空間伝播制御を能動的に行うことができれば、多重散乱が起こる系においても特定の場所に光を局在化させることが可能となる。本年度は、散乱体透過条件での超短パルス光の波面制御を行った。超短パルスレーザー光としては、非同軸光パラメトリック増幅器からの出力(~600 nm)を用いた。実験では、2次元液晶空間変調器を500~1000個のセグメントに分ける。分割したセグメントをランダムに2グループに分け、そのうちの1グループのセグメントの位相を0から2πまで変化させる。このとき、選択した領域の光強度が最大になる位相を決定する。これを繰り返すことにより、各セグメントの位相の最適値を求めた。このアルゴリズムを用いることにより、連続発振レーザー光の場合と同様に、特定の箇所に超短パルス光の光強度を集中させることができた。これまでの研究から最適化前後の強度増大率(コントラスト)は、レーザー光の波長に大きく依存することが知られている。本実験のように、幅広いスペクトルを持つパルス光では、その平均値を観測していることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、超短パルス光の波面最適化を行うことができたが、2倍波発生といった非線形光学効果を利用した計測については未着手であった。現在、紫外領域に感度を持つCCDカメラの導入し、非線形光学信号の計測に向けた準備を行っている。また、従来型の液晶をベースとした空間変調器だけではなく、マイクロミラーアレイをベースとした変調器による波面制御の実験系を構築している。液晶を用いた変調器では数十ヘルツと応答速度が遅いが、マイクロミラーアレイをベースとして空間変調器では、応答速度が数キロヘルツと非常に速く、高速な波面補正や最適化が可能になる。ここでは、市販のプロジェクターに使われているデジタルミラーデバイス(DMD)を用いて、波形制御の実験を行った。DMDは他の空間変調器と異なり、各ミラーの角度をON、OFFの2状態しか変化させることができない。このため、DMDに2値化したホログラムを書き込むことにより、位相変調を与えた。この場合も液晶光空間変調器の場合と同様な結果を得た。現在はまだ、制御に用いるソフトウェアの計算速度の最適化は行っておらず、計画書に記載したような速度の向上は実現できていないが、制御ソフトのコードの見直し等を行うことにより、安価で高速な波形制御が実現できると考えられる。さらに、液晶光空間変調器と同様にして、超短パルス光の波形制御への応用も可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
時空間領域の両方で波形制御を行う場合、制御のためのパラメーター数が非常に大きくなり、最適値を求めることが困難であることが予想される。そのため、時空間領域の同時制御ではなく、まず、空間領域についての最適化を行い、その後時間領域というように逐次的に制御を行うことを検討している。また、超短パルス光の線形応答による信号ではなく、非線形光学信号を増強させるといった目的では、超短パルス光の時間幅が狭くなればなるほど、その強度が急激に増大するため、最適化前後の背景ノイズに対するコントラストも急激に向上することが予想される。このため、散乱光そのものを最適化した信号よりも信号雑音比が良くなると考えられる。 上記の手法では、散乱光を波面制御により、ある場所に集光した後、別の場所に移動させる場合には最適化過程を最初からやり直す必要があり、効率が非常に悪くなる。このため、透過後の拡散光の分布から直接、散乱体中での光線伝搬に関する情報が得られることが望まれる。近年、時間反転対称性を利用して逆問題を解くことにより、散乱体中での伝搬についての情報をグリーン関数や転送行列の形で得ることができることが示されている。同様な手法は光学的な問題でも有用であることがわかっている。時空間領域での転送行列の計測により、散乱体の伝搬特性についての情報を得ることができれば、時空間波形制御の大幅な効率化が期待できる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記で記載した時空間領域での転送行列の計測を効率よく行うため、光学定盤を導入する。また、液晶やデジタルミラーデバイスをベースとした空間変調器に加え、新たにガルバノミラーシステムを組み合わせることにより、波面制御の最適化、転送行列の計測の高速化に着手する。研究費は光学定盤、ガルバノミラーシステムやその他の光学部品の購入に充てる。
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Research Products
(1 results)