2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24655025
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
坂本 昌巳 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00178576)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 有機合成化学 / 有機光化学 / 有機結晶 / 不斉合成 |
Research Abstract |
外的不斉源を用いずに光学活性化合物を得る絶対不斉合成は、不斉合成の手法としてばかりではなく生命の起源説と密接な関係があり、化学の分野のみならず広い学問領域から注目されている。これまでにも、円偏光を用いる手法や結晶のキラリティーを利用する方法がある。これらの反応は,不斉源を用いずに光学活性化合物を提供できる理想的な合成法であるが,用いることのできる反応には制限があり,これまでの成功例は非常に僅かで,新しい反応や手法の開発が強く求められていた。 我々は,様々な天然物に含まれるフラボノイドやカテキン,ビタミンPなどの基本骨格であるクロモンの2位にエステル,アミド,ニトリルなどの官能基を有する基質を溶液中で光反応することにより,C2対称の二量体を高効率,高収率,高選択的に生成することを初めて見出した。 生成物の物性を調査する中で,太陽光照射により,コングロメレートの二量体を効率良く与える系を見出した。さらにこの二量体はモノマーとほぼ同じ吸収波長を有しており、太陽光照射により原料のモノマーに選択的に開裂することで,二量体の見かけ上のラセミ化が同時に進行した。二量体はモノマーに比べ溶解度が低いために溶媒と濃度を選択することにより光照射中に反応系中に晶出してきた。この際にコングロメレート結晶のどちらか一方の鏡像体が優先的に晶出することで反応系全体に不斉が発現し、反応の進行に伴い不斉増幅が起こることを解明した。 24年度はC2キラルな光学活性化合物の生成の機構を明らかにするとともに,変換可能な多くの官能基を有している二量体を多彩な有機不斉反応の触媒や有機金属触媒の配位子としての利用した。これまでに例のない不斉の発現と増幅を実現する本反応の一般性と,得られた光学活性体の有効的利用法を開発した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
太陽光を利用した「無」から「有」を創造する新しい不斉合成の手法を開発するとともに,生成物のさらなる不斉反応への展開を推進した。24年度は,太陽光照射の条件検討,溶媒,温度,濃度,溶解度などの条件を整えることで,反応の効率や生成物の光学純度の向上を図った。高圧水銀ランプを用いて,低温で光照射した場合に80%eeの二量体の結晶が定量的に得られた。また,擬似太陽光を照射しながら,溶媒を自然に蒸発し乾固させる手法においても50%eeの二量体が得られた。高い光学純度の結晶性の光反応生成物を得るために,初期濃度,反応温度,溶媒の種類などを検討した。さらに,反応温度を徐々に下げながらの結晶成長を促す検討や溶媒を徐々に蒸発させながら光照射を検討し,高光学純度のC2キラル二量体の創出を達成した。 さらに得られた光学活性体を有機触媒や不斉有機金属反応の配位子として活用するための分子変換反応を行った。光照射により得られた二量体は,変換可能な2種類のカルボニル基を有するため,種々のヒドラジンとの反応ではヒドラゾンを合成した。このヒドラゾンのPd錯体を形成し,スズキカップリングの触媒として有効であることを示した。さらに二量体をNaNH4で還元することでジオールを立体選択的に合成した。得られたジオールと亜鉛との錯体を形成しアルデヒドへの不斉アルキル化を達成した。ほぼ24年度の計画を達成することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
24年度の研究成果を受けて,さらなる研究の展開のために,絶対不斉合成により得られたC2対称光学活性化合物を分子変換し,不斉触媒反応へと有効活用する。ジアミン配位子や有機リン配位子,さらに不斉有機触媒への展開を推進する。 さらに,エピ化優先晶出を伴うジアステレオ選択的光二量化反応の開発と不斉反応への展開を検討する。分子内に不斉中心を導入した基質での太陽光照射により,見かけ上の光エピマー化を起こしながら優先晶出を行うことで,唯一のジアステレオマー結晶に収束させることができると予想した。絶対不斉反応とは異なるが,必ず光学活性体を得ることができるため,実用性に優れた手法であり,最初に導入した光学活性部位を,その後の不斉触媒反応へと利用できる分子デザインも含めて検討する。 さらに,クロモンの二量化反応以外にも,光反応と動的優先晶出法の組み合わせにより,この新しい絶対不斉合成は可能である。光反応としては,ラセミ化を伴う,E,Z-異性化,α-開裂反応,水素引き抜き反応などの多くの反応へと展開が可能である。本手法を様々な反応系へと応用することで有用性を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験装置はほぼ整っているため,消耗品の購入に研究費を充てる。基質の合成,分離精製等に必要な試薬や実験器具,さらに生成物を物質変換し不斉配位子や有機不斉触媒として活用するための反応試薬,反応器具,また,光学純度を求めるための試薬や溶剤の購入に充てる計画である。
|
Research Products
(17 results)