2012 Fiscal Year Research-status Report
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24655030
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
安田 誠 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40273601)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 共役系 / 非平面 / スルースペース / 電荷移動 / 発光 |
Research Abstract |
非平面的に結合するビアリール化合物種の物性に関して、以下の結果を得た。 (1) スルースペース原理探求 一般にビアリールのふたつの共役部位のねじれ角度は約40-50度が最安定であり、平面状態はきわめて不安定 であることが知られている。peri位にOHを有するビアリールにおいても同様の計算結果が得られているが、励起 状態の理論計算もあわせて考慮すると、分子内電荷移動(CT)による特異な励起状態の形成が示唆されている。理論計算により、非平面状態の芳香環間で電荷移動が起こり、静電的な作用がによる安定化が起こることが明らかとなった。これが大きなStokes shiftの増大効果を示す原因であることを明らかとした。 (2) 連結ヘテロ原子探索 フェニルナフタレンの2つの独立したアリール部位間に介在するヘテロ原子は、分子内CTおよび結合している 水素との極性に影響を与える。ヘテロ原子の性質は分子軌道のエネルギーレベルの大きな決定因子である。この部位に、酸素を導入したものを中心に検討を行ったところ、OHとOMeでその効果に違いがみられた。OHは分極が大きく、上記の安定化効果が高い。これらのことを理論計算でも支持されることも明確となった。また、系の酸性度を変化させることで、酸素との相互作用により、その安定化効果を調整することができた。これらの知見は、(1)の考えを支持するものであり、本研究コンセプトの本質が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的は(1) スルースペース原理探求と(2) 連結ヘテロ原子探索を計画していた。(1)に関しては、理論計算と実験結果の一致を見たことから、ほぼ目的を達成した。(2)に関しては、ヘテロ原子として酸素の検討のみにおわった。本来は窒素体の検討を行い、窒素上の置換基の影響を見る予定であった。しかし、酸素において、OHとOMeとの間で興味深い差を見いだすことができ、そのことは窒素体の検討に入る前に解決しておくべきことと判断し、今年度はその検討を重点的に行った。その検討の中で、系の酸性度が物性に影響を与える知見を得ることができた。これらの結果は(1)の仮説の確度を大きく高めるだけでなく、本来の目的である窒素体の検討に対しての方針を整理することにおおいに貢献したと考えれれる。 これらのことから判断し、おおむね順調に進展していると判断した。また、予期せぬ検討結果を得たことから、別の角度で考えれば、計画を越える成果が得られたと判断することもできる。
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Strategy for Future Research Activity |
成果および達成度の項で記したように、本年度の目的(2)に関する窒素体の検討を行えていない。しかし、酸素体で予想を超える結果が得られていることから、その知見をもとに、まず窒素体の検討を中心に行う。そのことに加えて、以下の検討を予定する。 (1) 連結によるトポロジー評価 初年度に基本原理、ヘテロ原子の効果および置換基効果を明らかにした後に、それらを融合させたタイプの共 役系拡張分子の合成を行う。ビアリール骨格を同方向型、対面型、放射型を基軸とした連結分子を合成する。ま た、多量体には立体異性体が存在し、その影響も探索する。同方向型にはスパイラル構造や、ジグザグ構造の異 性体も存在し、それらの影響も光物性に顕著に現れることが予想され、合成、分離、物性解析を精密に行う。こ のようなトポロジー制御は非平面型共役連結を標榜する本手法ならではの化学である。 (2) 塩基作用によるアニオン種の物性検討 活性プロトンを有するビアリール化合物は、塩基の作用により容易にアニオン体を発生できる。例えば、同方 向型や対面型の多量体に塩基を作用させるとコンホーメーションが通常とは変化し、かつ芳香環との静電的安定 化度合いが向上することが予想される。様々なタイプの長波長強発光材料を目指し検討する。 (3) 金属との連結型化合物への応用 上記(2)のチウム系塩基を用いたかご型リチウム複核錯体の合成を行なう(本研究は一部予備実験に成功して いる。X線結晶構造解析の結果、きわめてユニークな立体構造をしていることがわかっている)。この溶液をUV 書写による物性挙動と、発光の相関を見積もる。このことにより、金属の関与したスルースペース効果の原理の 確立をめざす。すなわち、金属錯体型非平面連結分子を利用した光照射下での触媒反応を検討し、新しい光利用 の端緒を見いだすことをめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は窒素体の検討が行えなかった分、本来の予算に残額が生じている。したがって、その分を次年度の窒素体検討の研究経費予算として組んでいる。その他の経費に関しては、本来の計画どおりの水準で使用計画をたてている。本年度の予期せぬ知見が次年度の研究の速度を大きく高めていることから、一見遅れているように見える研究進度は次年度の効率的な研究計画によって、すみやかに行えるものと考えている。 したがって、昨年の未完了部分と、ほぼ本来の研究予算の通りの形で実施できると考えている。
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