2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24655044
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小島 隆彦 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20264012)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 触媒・化学プロセス / 再生可能エネルギー / コバルト錯体 / 水の酸化反応 / プロトン共役電子移動 |
Research Abstract |
水の酸化反応の触媒として、 Co(III)複核錯体(1)を得た。錯体1のキャラクタリゼーションはX線結晶構造解析等により行った。Britton-Robinson(BR)緩衝液中で錯体1のサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行ったところ、1 V vs SCE付近に触媒電流を観測した。この触媒電流が、0.1 mAに達するのに必要な電位のpH依存性を測定したところ、各pH領域に存在する錯体1の化学種に応じて、プロトン共役電子移動(PCET)過程、および電子移動過程をそれぞれ観測した。したがって、錯体1による触媒反応の律速段階は、Co(III)複核錯体が、Co(IV)複核錯体(2)に酸化される過程であることが示された。このCV測定で観測された触媒過程が、水の酸化による酸素発生に基づくことを検証するために、BR緩衝液中において錯体1と化学酸化剤を反応させた。この際に発生した気体が酸素であることを、ガスクロマトグラフ測定により確認した。この時、pH 8における酸素発生量から求めた触媒回転数は4.3であった。また、18-Oでラベルした水を溶媒に用いた同位体ラベル実験により、水が酸素源であることが裏付けられた。この際、発生した酸素の同位体比から、1回転目の酸素発生において、錯体1の架橋配位子である2つのO原子同士が分子内で結合して分子状酸素となっている、すなわち分子内でO-O結合形成が進行していることが示された。以上の結果を踏まえて、錯体1による水の酸化の反応機構を推定した。この反応中では、錯体1から錯体2へのPCET過程が律速段階であるため、中間体であるパーオキソ錯体3を触媒反応条件下で単離・検出することは困難だった。そこで、別の合成ルートから合成した錯体3を用いて、錯体3と酸化剤を反応させた際に酸素が発生することを確認し、パーオキソ錯体3が水の酸化反応の中間体であることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初の目的であるコバルト(III)複核錯体を用いた水の触媒的酸化反応に、研究初年度早々に成功した。また触媒電流値のpH依存性からCo(IV)複核錯体の生成が、触媒過程の律速段階であることを明らかにし、さらにそこから分子内でO-O結合を形成している証拠を得るなど、当初の計画通り触媒反応機構に関しても多くの知見を得た。そのハイライトの1つが、別途合成したパーオキソ錯体を用いて、この結晶構造を明らかにし、さらにこれが酸化剤と反応することで酸素発生することを実証したことである。 さらに、[Ru(bpy)3]2+ (bpy = 2,2'-ビピリジン)を光増感剤、Na2S2O8を犠牲酸化剤として水の光酸化触媒系を構築し、触媒回転数174回、酸化剤に対する収率72%で酸素分子の生成を達成した。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度、既にCo(III)複核錯体を用いて、当初の研究目的である水の触媒的酸化反応を達成した。昨年度の成果のなかで問題点を挙げるとすると、触媒電流が発生する電位が1.1 V vs SCE以上と高く、大きなオーバーポテンシャルが残っている点である。またもう1点は、化学酸化剤、および光駆動触媒反応を行う際の、光増感剤兼電子伝達剤として用いている、ルテニウム(III)-トリス(ビピリジル)錯体が、触媒反応最適pHであるpH 7以上の水溶液中で不安定なことに起因して、触媒回転数がまだ不十分な点である。 上述の問題点を克服し、より実用性の高い触媒系の開発を本年度の目標とする。1つは、オーバーポテンシャルの低下を目指して、Co(III)錯体の配位子を工夫することである。具体的には、補助配位子として用いているポリ(ピリジルメチル)アミン配位子の、ピリジン環に電子供与性置換基を導入することを目指す。これによりCo中心のCo(III)/Co(IV)の酸化還元電位を低下させ、結果的に触媒の動作電位の低下を目指す。 もう1つは、より高pHでも安定で、より効率よく電子伝達する酸化剤を探索することである。具体的な候補としては、水溶性ポルフィリンなどの色素を用いることを計画している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
試薬の購入、学会出張旅費、論文別刷代など。 平成24年度実施状況報告書(収支状況報告書)の次年度使用額欄の34,000円(残額)は、年度末に出張した際の旅費(研究成果発表のため日本化学会第93春季年会に出張:3/22-3/25)であり、4月に支払われる予定である。
|