2012 Fiscal Year Research-status Report
階層化された不安定性を有する高分子確率的素子を用いた生体模倣デバイス
Project/Area Number |
24655093
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
浅川 直紀 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80270924)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 生体模倣デバイス / 階層化 / 不安定性 / 高分子 / バイオベースポリマー / 確率共鳴 / コヒーレンス共鳴 |
Research Abstract |
本研究は、生体の神経系がもつ階層的で複雑な時空間相関による低消費電力の信号情報処理を模倣したデバイスの創製を目標としている。そのために、室温付近に融点をもつ高分子物質の物性ゆらぎを積極的に用いた確率的遅延素子の創製を目的として研究を行った。低融点高分子物質として、これまで用途が限定的であった低融点バイオベースポリマーや生分解性高分子に着目し、エレクトロニクス用途開拓を図った。平成24年度は、確率的遅延素子に必要なキャパシタ素子のための低融点高分子の探索と低融点高分子を用いた確率的遅延素子の試作を行った。低融点高分子としては、耐熱性が乏しいことにより用途が限定的であった、潜在的バイオベースポリマーであるポリ(ブチレンセバケート)[融点:約65 ℃] や化学合成生分解性高分子であるポリ(ε-カプロラクトン)[融点:約60 ℃] といった脂肪族ポリエステルと、ポリ乳酸(PLLA)やポリブチレンサクシネート(PBS)といったPBSeやPCLと比較して高融点のポリエステルとの混合系を用いた平行平板キャパシタを作製し、その誘電特性や電場パルス応答特性により、遅延時間特性の違いや確率性の発現を調べた。PBSeやPCL単体のナノ薄膜を用いた場合には、融点以上での高分子の流動化に伴うキャパシタ構造が崩壊したため、PLAやPBSとのブレンドや多層膜化を検討し、キャパシタ構造が崩壊しないように、PLA やPBS にリブ(支柱) としての役割を担わせた。鋭意努力の結果、キャパシタ構造を維持しつつ電気容量が大きな時間ゆらぎをもつ条件を発見した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非相溶なPLLA:PCL単層膜を用いたCr/Au/PLLA:PCL/Au素子では、誘電緩和測定、電場パルス応答測定、ノイズ測定、原子間力顕微鏡測定により、誘電特性の時間ゆらぎが大きくなるためのPCLリッチドメインの至適サイズがあることが示唆された。また、相溶系であるPBS:PBSe単層膜を用いたCr/Au/PBS:PBSe/Au素子では、誘電特性の顕著な時間ゆらぎは観測されず、高分子を多層化したCr/Au/PBS/PBS:PBSe/Au素子では、PBS:PBSe組成を調節することによって誘電特性の顕著な時間ゆらぎが観測された。この結果より、本研究の目的である、確率的遅延素子に適した物質の探索とデバイス素子の創製という、第一目標を達成できたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、低融点高分子を含む高分子混合系を用いたキャパシタ素子と、抵抗素子から構成される微分回路素子を作製した。この微分回路素子は、ボトムアップ的に発生する容量ゆらぎを利用することにより、時間的に変動する遅延時間をもつ確率的遅延素子としての役割を果たす。この確率的遅延素子は、時々刻々と遅延時間が変化するという機能のみならず、微分回路であるため、入力信号を時間と共に電圧0V へと緩和させる機能をもっている。平成25年度には、よりマクロな不安定性をもつデバイス素子の作製を試みる。すなわち、確率的遅延素子(確率的微分回路素子) の電圧0V へ誘導する力と、それに拮抗する力、すなわち、0V でない電圧に留まろうとする力、例えば強誘電性キャパシタのもつヒステリシス効果の保持力とを競合させることによって不安定性を発生させる。この不安定性は、単一の確率的遅延素子が発生する物性の不安定性とは異なり、遅延素子と強誘電性キャパシタの二つの素子間で発生する「よりマクロな不安定性」であるため、その不安定性は質的に異なると考えられる。今年度と次年度は、このような階層の異なる二つの不安定性が素子ネットワークを及ぼす影響を調べ、階層性を有する生体模倣型のセンサや信号情報処理デバイスの複雑処理系としての可能性を追求する。そのために、今年度には、強誘電性高分子ナノ薄膜を用いたヒステリシス付きコンパレータ(閾値判断)素子の作製を行う。次に、前年度作製に成功した確率的遅延微分素子とこのコンパレータ素子とから構成される複合素子の作製を試みる。並行して、生体模倣型信号処理のためのアナログ電子回路による機能デモ回路の遅延微分素子部分を、前年度作製した高分子確率的遅延微分素子に置換したネットワーク回路の創発的な協調動作を調べる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度研究開発される、ヒステリシス付きコンパレータ素子の作製には、高分子強誘電体ナノ薄膜に対する大電圧を用いたポーリング処理や温度制御下・真空状態での構造化プロセスが必要となると予測される。そのための高圧電源とロータリーポンプを購入する。さらに、ヒステリシス付きコンパレータ素子の非線形電場応答性、すなわち、確率共鳴現象やコヒーレンス共鳴現象の発現や、階層的な不安定性を評価するためには、疑似的なノイズ発生源としてファンクションジェネレータと信号増幅器が必要となる。この実験により、コンパレータ素子と確率的微分素子との複合素子のノイズ特性を明らかにすることが可能になると考えられる。
|