2013 Fiscal Year Research-status Report
階層化された不安定性を有する高分子確率的素子を用いた生体模倣デバイス
Project/Area Number |
24655093
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
浅川 直紀 群馬大学, 理工学研究科, 准教授 (80270924)
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Keywords | 高分子構造・物性 / 階層性 / 不安定性 / 高分子デバイス / 信号処理 / 情報処理 |
Research Abstract |
バイオベースポリマーや生分解性高分子の中には、低融点であるがゆえに従来用途が限定的であるものが多い。本研究では、このような従来利用価値が低いと考えられてきた高分子物質に注目し、次世代の生物模倣型のエレクトロニクスへの応用を見据えた高分子デバイス研究を行った。生体情報処理システムは、その構造のみならず、神経回路網のダイナミクスも階層化されており、そのダイナミクスによって複雑な信号情報処理を行っている。この階層化された神経回路網のダイナミクスによって、生物は、環境変化に対する柔軟性・頑強製を獲得している。本研究では、この階層化されたダイナミクスを人工的に模倣するために、階層性を有する不安定性を内包したデバイスシステム、すなわち、(i)基本素子レベルでの不安定性、(ii)複合基本素子レベルでの不安定性、(iii)素子ネットワークレベルでの不安定性を有する素子ネットワークデバイスの創製を目指している。現時点では、基本素子レベルでの不安定性を、低融点高分子物質を用いた確率的遅延微分素子(SDDE)と高分子強誘電体を用いたヒステリシス付き閾値素子(TEH)の開発を行った。植物を原料とするポリ乳酸[PLLA]と低融点生分解性高分子であるポリ(e-カプロラクトン)[PCL]とから構成される結晶性非相溶高分子混合系を用いたSDDEとポリ(フッ化ビニリデン)[PVDF]とポリ(メタクリル酸メチル)[PMMA]の混合系を用いた高分子強誘電体ナノ薄膜を用いたTEHの開発を行った。現在、SDDEとTEHとから構成される複合基本素子を作製し、確率共鳴現象といった確率的電気特性の評価を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、本研究によって開発された確率的遅延素子(SDDE)の電圧0Vへ誘導する力と、それに拮抗する力、すなわち、0Vでない電圧に留まろうとする力と競合させることによって不安定性を発生させることに注力した。具体的には、強誘電性キャパシタのもつヒステリシス効果の保持力とを競合させることを考えた。強誘電性キャパシタとして、ポリ(フッ化ビニリデン)[PVDF]とポリ(メタクリル酸メチル)[PMMA]との高分子混合系ナノ薄膜を用いることにより、延伸処理や電場ポーリング処理を行うことなく、強誘電性を有する薄膜デバイス素子の作製を行った。この素子をヒステリシス付き閾値素子(TEH)として用い、確率的微分素子との競合により、不安定性を意図的に発生させた。この不安定性は、単一の確率的遅延素子が発生する物性の不安定性とは異なり、遅延素子と強誘電性キャパシタの二つの素子間で発生する よりマクロな不安定性であるため、その不安定性は質的に異なる。平成25年度は、このような階層の異なる二つの不安定性の特性を調べ、ヒステリシス付き閾値素子が確率共鳴現象を起こすことを見出した。以上のことより、現時点では、当初の研究計画をおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、複数の既存の電界効果トランジスタ、または、本研究によって開発された強誘電性高分子薄膜を用いたヒステリシス付き閾値素子を用意し、その素子間に、前年度までに本研究によって作製された確率的遅延素子を挿入し、フィードバック回路を構築する。各閾値素子へは外部からノイズ信号を入力するか、あるいは、確率的閾値素子が有する内部ノイズを用いることにより、確率的にパルス状信号を出力するように設定する。各閾値素子の出力段に本研究により開発された遅延微分素子を挿入することにより、信号伝達は遅延し、フィードバック回路は平衡状態を形成することができず、確率的カオスや同期発振状態といった集団運動状態へ推移すると予想される。このような動的な状態は各素子の性質の単なる総和では表現できず、集団協調ダイナミクスとしてとらえることができる。このような自律的な状態発生が、高分子物質がもつ固有の性質から発生可能であるかどうかを実験的に検証し、生体型の情報処理デバイスの創製のための基礎を構築する。さらに、構築された低融点高分子物質を用いた確率的遅延フィードバック回路に対して、外部より環境センサ信号をミミックした電気信号を入力し、システムの電気的挙動を追跡する。本研究では、遅延フィードバック機構という特徴以外は可能な限り個性のない構造を模索し、創発的挙動の一般的性質を引き出すことを目指す。このような現象が観測されるならば、生体がシステムとして行っている情報処理機構に肉薄した人工機械が実現し、複雑制御システムのための低消費電力の情報処理プロセッサやセンサとしての利用可能性が高まると期待される。以上の研究を実施し、最終年度として研究の総括を行う。
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