2012 Fiscal Year Research-status Report
イタコン酸の不斉環化反応による高性能ポリアミドの合成
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24655099
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
金子 達雄 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 准教授 (20292047)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 高分子合成 / ナイロン / 光学活性 / イタコン酸 |
Research Abstract |
イタコン酸からビニル系ポリマーが得られる事は古くから報告されている。しかし、エンプラ開発の観点に基づいた研究はなく、そもそも反応性の高い二重結合を持つモノマーは取り扱いが難しいためビニルモノマーとしての利用以外では困難と考えられてきた。その中で、イタコン酸のユニークな構造的特徴に着眼し、あえて合成の難しい不斉中心を持つ新規ポリアミドのために活用しようとする試みを行った。 具体的には、イタコン酸とアミノ酸からの非対称二カルボン酸モノマーの合成を以下の方法で行った。まず不斉中心の無いグリシンを用いて生成物の多様性を減らした反応系で条件を探り出した。このとき、アミノ酸のアミノ基は隣接するカルボキシル基の効果により反応性が下がった状態にあることに留意し、この反応系に最適な触媒を選択する。結果として、イタコン酸のメチルエステルを合成し、これとグリシンを反応させた。このときt-BuONaを用いた場合に直接反応法で目的のピロリドン環を持つモノマー前駆体を合成できることが分かった。その後、メチル基の脱保護を行ったが、アルコール中にNaOHを混合した状態でアルカリ分解させる方法が最も適切であった。これによりモノマーであるピロリドン環を有する二酸を合成した。また、ピロリドン環が光開環反応を起こすことを見いだし、これを用いてピロリドン環を含むポリアミドが光照射により水溶性へと変化するユニークな現象を見いだした。 次に、光学活性なL-アミノ酸へと系を移行するために、バリン、ロイシンおよびフェニルアラニンを用いて合成を行った結果、同様の方法で光学活性な二酸を得ることが出来た。これらの二酸にはピロリドン環が含まれるために、ジアミンとの反応により得られるポリアミドは比較的高いガラス転移温度や力学強度を示すと期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、イタコン酸とグリシンからの頭尾非対称型の二カルボン酸モノマーの合成に 成功した。このとき、アミノ酸のアミノ基は隣接するカルボキシル基の効果により反応性が下がった状態にあることに留意し、この反応系に最適な触媒を選択した。実際はt-BuONaを用いた場合に、イタコン酸のメチルエステルとグリシンが良く反応し、目的のピロリドン環を持つモノマー前駆体を得ることが出来た。しかし、その後のメチル基の脱保護が非常に難しく、一般の塩酸や水酸化ナトリウムおよびアンモニア水などを用いた場合には全く反応が進まなかった。最終的には、アルコール中にNaOHを混合した状態で系中に微量に含まれる水を用いてアルカリ加水分解させる方法が最も適切であることが分かった。この条件によりモノマーであるピロリドン環を有する二酸を合成できることが分かった。 次に、光学活性なL-アミノ酸へと系を移行するためにバリン、ロイシンおよびフェニルアラニンを用いて合成を行った結果、同様の方法で光学活性な二酸を得ることが出来た。これらの二酸にはピロリドン環が含まれるために、ジアミンとの反応により得られるポリアミドは比較的高いガラス転移温度や力学強度を示すと期待できる。ここまでで、当初の研究計画に記載の目標はおおむね達成した。光学純度に関してはほぼ50%のラセミ体であった。 また、予想出来なかった以下の現象も見いだした。ピロリドン環が光開環反応しポリアミドが光照射により水溶性へと変化するユニークな現象を見いだした。これは、ナイロン系廃棄物が環境中に散在してしまった際に太陽光と雨で浸食する可能性をしめしており、将来の環境分解性プラスチックにおいて非常に重要な現象である。以上により、(2)のおおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度に合成したモノマーはラセミ体である可能性が高いため、再結晶条件やカラム条件を整えてジアステレオマー分離を行う。次に、生成した非対称二カルボン酸モノマーと各種二アミンを反応させポリアミドを合成する。この時、ラセミ化が起こる可能性があるため、高活性の縮合剤などで出来るだけ低温での重合条件を見出す。さらにポリマーの構造を分光法で確認し結晶構造を広角X線回折法で評価する。この際、うまく配向繊維が出来ない場合にはモンモリロナイトなどのナノ鉱物を混合することで、バイブリッド化による補強を行い繊維張力を最大限に出せるようにする。以上の計画を元に、H26年度のステレオコンプレックス化につなげる。 また、未使用額が生じたがそれは当初の予想よりもスムーズに研究を進めることができたためであり、その分、来年度はX線回折においてイメージングとスキャンを組み合わせるなどの方法で、さらに充実した構造解析を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品をメインとする予算立てを行っており、モノマーおよいポリマー合成のための、試薬、溶媒、ガラス器具、溶媒などを購入し合成を行う。さらに、ポリマーの構造解析、分析を行うために、NMRセルなどの分析セルや測定治具などを購入し、性能評価試験に重点を置く。また、旅費に関しては常に各学会に於ける情報・資料収集、調査研究、成果報告を行い、さらなる研究発展につながると考えられる研究者と積極的に打ち合わせを行う。また、大学院生に役割分担が与えられるため、学生の謝金にも使用する。その他に関しては、積極的に論文報告を行うための経費を計上した。また、特に大きな割合を占める経費はない。
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