2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24655103
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
安中 雅彦 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40282446)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松浦 豊明 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (10238959)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | バイオハイドロゲル / 硝子体 / ダイナミクス / 相挙動 / 動的光散乱 |
Research Abstract |
高分子がどの様な条件下で熱力学的に安定な状態,つまり「相」を取るのかという物理化学的な原理の理解の深化を目的として,高分子を構成する構成要素間に働く分子間相互作用と,高分子の示す相挙動,さらに微視的構造との相関ならびにその制御に関して,実験的研究に取り組んできた。 平成24年度は,これまで物理化学的な検討が殆ど行われてこなかった,硝子体の構造,ダイナミクス・相挙動に取り組んだ。ある種の疾病は,分子論的には,この硝子体の複雑な構造の変化に影響をおよぼしていると考えられ,例えば硝子体の収縮は,後部硝子体剥離,硝子体出血,網膜剥離等を誘発すると考えられる。そこで柔軟なヒアルロナンと半屈曲性のコラーゲンネットワークの結合したモードについての方程式を構築すると同時に,豚硝子体を用いて,その相挙動,物性およびダイナミクスをin vitroで検討を行った。ゲルのユニークな物理的性質は,その構造に起因し,2つのbulk coefficient,すなわち弾性定数とゲルネットワークと溶媒の間の摩擦係数によって特徴付けられる。力学的測定により,硝子体ゲルネットワークと水の間の摩擦係数を測定することに世界で初めて成功した。さらに,動的光散乱により子体ゲルのダイナミクスについて検討を行い,生理条件下における硝子体ゲルの相転移を世界で初めて観測した。疾病により引き起こされる硝子体ゲルの様々な変化の物理化学的原理の追求には,次年度以降より詳細な分子論的検討が必要ではあるが,本研究は硝子体ゲルの構造および動的性質に対して,新たな光を与えたものと高く評価されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
硝子体はコラーゲンとヒアルロナンから構成される希薄なハイドロゲルで,その役割は眼球の形状保持,力学的衝撃の吸収,眼球の恒常性維持,また水晶体の位置の制御等である。硝子体は透明であり,従って構造的に均一な組織であると考えられ,これまでの多くの研究から,コラーゲン繊維の3次元ネットワーク中に,コイル状態のヒアルロナンが均一に分布しているとされてきた。しかしながら,硝子体の構造,ダイナミクスまた相挙動に関する検討は殆ど行われておらず,さらに硝子体がゲルネットワーク構造を有するという明確な証明すらないのが現状であった。そこで候補者は,柔軟なヒアルロナンと半屈曲性のコラーゲンネットワークの結合したモードについての方程式を構築すると同時に,豚硝子体を用いて,その相挙動,物性およびダイナミクスをin vitroで検討を行った。 ゲルのユニークな物理的性質は,その構造に起因し,2つのbulk coefficient,すなわち弾性定数とゲルネットワークと溶媒の間の摩擦係数によって特徴付けられる。候補者は,力学的測定により,硝子体ゲルネットワークと水の間の摩擦係数を測定することに世界で初めて成功した。さらに候補者は,これら実験結果をもとに,動的光散乱により子体ゲルのダイナミクスについて検討を行った。 豚硝子体からの散乱光には,比較的速い成分と遅い成分の2成分が観測された。さらに,コラーゲン繊維の形成するネットワーク中をヒアルロナンが埋めているという仮定のもとに,コラーゲンの動きがヒアルロナンのダイナミクスとカップリングしていることを記述する理論を構築した。この理論は実験結果を良く再現し,硝子体中のコラーゲンの協同拡散係数が,水中での拡散係数に非常に近い値であることを明らかにした。このことは,硝子体が膨潤状態にあることを示唆するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
臨床現場において診断で使用するためには,硝子体の様々な局所部位をプローブできることが重要である。そこで,申請者らは右図1に示すような,眼科測定法として日常的に行われている前房蛋白濃度の定量的測定に用いるレーザーフレアセルメータを改良した臨床現場で利用可能な光散乱装置の設計と試作を実施する。本DLS装置では,散乱体積を2 mm3程度に小さくすることで,硝子体内のより局所的な状態を観測することを可能にする。その結果,病態変化のより初期段階の診断,人工硝子体と組織界面での局所的な状態を非侵襲的に観測が可能となることが期待できる。散乱光の検出は,アバランシェフォトダイオード検出器(APD)を用いて行い,相関関数は市販のコリレーターを用いて行う。コリレーターは,本申請で専用機 (ALV/LSE 5004Light Scattering Electronics& Multiple Tau Digital Correlator) を購入する予定である。本検討は,下記の研究項目4の結果のフィードバック行い,改良を加える。 上記研究項目で検討・開発した機器の性能確認としては,連携研究者の松浦豊明(奈良医大・眼科)と協力して下記の測定を実施する。①コラーゲン,ヒアルロナンの単独水溶液中でのダイナミクス測定で得られた結果との整合性確認,②豚摘出眼の硝子体のin vitro DLS測定と得られたデータの従来型DLS測定データとの整合性確認,③白色家兎(正常眼)を用いたin vivo DLS測定方法論の確立,④白色家兎を用いた疾患状態にある眼球のin vivo DLS測定と従来法による医学所見との相関,⑤人工硝子体で置換した白色家兎硝子体のin vivo DLS測定と従来法による医学所見との整合性の確認。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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