2012 Fiscal Year Research-status Report
前例なき三次元構造形態を有するディスコティック液晶の相挙動の徹底解明
Project/Area Number |
24655118
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
福島 孝典 東京工業大学, 資源化学研究所, 教授 (70281970)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
庄子 良晃 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (40525573)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 液晶 / キュービック相 / トリフェニレン / イミダゾリウムイオン / 自己集合 |
Research Abstract |
平成24年度は、双連続キュービック相を発現するディスク状液晶分子群の開拓を目指し、申請者が既に見出しているヘキサアルコキシトリフェニレンに代わる新しいコアモチーフを探求した。一連の研究において、コアの電子密度を減少させたエステル置換トリフェニレンをコアとする類縁体を合成したところ、これらの液晶分子はヘキサゴナルカラムナー相を発現せず、25→81および 81→146℃の温度範囲(加熱過程)でカラム構造を有する orthorhombic 相を発現し、また146→200°Cの高温領域ではIa3dキュービック相を発現することを見出した。この挙動は、これまで検討してきたヘキサアルコキシトリフェニレン誘導体の相挙動とは大きく異なる。さらに偏光顕微鏡観察の過程で、この新たな液晶分子はモノドメイン化した相を与える傾向が強いことを見出した。そこで SPring-8のビームラインBL26B2において、単結晶構造解析に用いるものと類似の実験系を組み、この液晶物質から得られる回折像の収集を試みたところ、モノドメイン構造に由来する良好な反射データを得ることに成功した。このデータを解析して得られた描像は、これまで想定されてきたIa3dに属するジャイロイド構造とは大きく異なり、さらに最大エントロピー法による電子密度解析からもこの結果は支持された。また、より低温域でキュービック相を発現するヘキサアルコキシトリフェニレン誘導体を用いて、固体NMR測定、密度測定、およびレオロジー測定によるIa3dキュービック相の詳細な構造解析と動的性質について検討した。これらの観測結果より、これらのトリフェニレン誘導体が形成するキュービック相は、固体のように堅い性質もつ一方、その内部では分子運動できるというユニークな特性を有することを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、イミダゾリウムイオンを側鎖末端に有する液晶性トリフェニレン誘導体が、双連続 Ia3d キュービック相を発現するという予想外の発見に端を発しており、このほとんど類を見ない構造形態の全貌を解明することが最大の目標であった。しかし、この目的を達成するには、幾つかの大きな山を越えなければならない。すなわち、(1)液晶のモノドメイン化、(2)解析を可能にする良好なX線反射データの収集、(3)得られたデータを用いた構造解析法の開発(通常の単結晶X解析をそのまま適用することはできない)である。特に(1)については、この系に限らず一般の液晶系においても big challenge であり、実際には偶然と幸運に頼らざる得ないほど困難な課題である。研究当初大きな不安を抱えていたが、幸運にもアルコキシ基をエステル基に変換した誘導体を設計した結果、この課題を一気にクリアでき、本研究最大の目標を本年度内に達成できたことはこの上ない喜びである。したがって、自己評価としては「当初の計画と予想を遙かに超えた成果が得られた」と考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、24年度の成果について論文発表の準備を進めると同時に、得られた知見の深化と展開研究を目指す。例えば、双連続Ia3d液晶相を示すトリフェニレン誘導体に対し、キラリティを導入することでもたらされる分子集合形態を検討する。一般に、棒状またはディスク状液晶分子にキラリティを導入すると、分子がラセン状に積層した集合体が得られる。一方、キラル液晶による三次元集合構造としては、ラセン状カラムが三次元方向に組み合ったブルー相が知られている。ブルー相は高速電場応答性を示すことから、次世代ディスプレイ材料の候補として盛んに研究されている。今回見出した前例のない構造形態を有するキュービック液晶にキラリティーという摂動を与えた場合、どのような構造が得られるかは極めて興味深い課題である。 上記に加え、モノドメイン液晶のIa3dキュービック相におけるX線構造解析技術を適用して、相転移に伴う電子密度変化のその場観察を試みる。液晶相転移を伴う分子の動きに関する情報を得ることは非常に困難であり、未だ謎に包まれている。もう一つの大きなチャレンジとして、結晶相反応における「単結晶-単結晶相反応」のような相転移による構造変化の前後ないしはその場観察を目指す。 双連続キュービック液晶の精密構造解析に加え、本年度は機能開拓へ向けた展開をはかる。例えば、これらの液晶は三次元的に張り巡らされたイオンのチャネルを有しているため、そのイオン伝導性は極めて興味深いターゲットである。Ia3dキュービック相の新しい特異構造形態は、多くの応用を切り開く大きな可能性を秘めており、25年度はこの点にも注力した研究を推進する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費を効率的に使用したため未使用分が生じた。当該研究費は、次年度の計画を実施するため、有機合成試薬、溶媒、実験資材等の消耗品の購入費、および成果発表のための学会出張旅費として使用する。
|
Research Products
(6 results)