2012 Fiscal Year Research-status Report
アクティブメンブレンの創製と有機無機ハイブリッド積層膜構築への展開
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24655179
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
蟹江 澄志 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (60302767)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 有機無機ハイブリッド / 液晶 / リン脂質 / 外場応答 / ナノシート / 積層膜 |
Research Abstract |
近年,脂質二分子膜の機能を活用したあらたな機能材料の開発検討が盛んに行われている.こうした試みは,脂質二分子膜に少量の機能性分子を導入することに主眼が置かれ,二分子膜自身に機能性を付与するというよりむしろ,脂質二分子膜は単に機能性分子固定用の土台として用いられている.そこで本申請課題では,脂質二分子膜の主構成成分であるリン脂質に着目し,光・電場応答性サーモトロピック液晶にリン脂質部位を導入し,外場によるアクティブな組織構造変化・ダイナミックな応答性を示す人工リン脂質を創製することを目的とする.さらには外場の印加により大面積均一配向リオトロピック液晶場を形成させ,ナノ粒子の“その場合成”を行うことで外場応答性有機無機ハイブリッド多層積層膜を構築する手法を開発することを最終的な目標として研究開発を行っている.具体的には,アクティブメンブレンとして有機無機ハイブリッド積層膜を構築するため,水酸基を有する有機液晶を原料としてリン脂質誘導体を合成する.この際,逆相カラムを用いて十分に精製操作を行った.得られたリン脂質誘導体の組織構造や液晶性を各種分析および University of Sheffield の G. Ungar 教授との共同研究体制により評価した.更に,外部刺激,具体的には電場・光による液晶組織構造の均一配向処理のための条件を探索する.この際,京都大学高西陽一准教授と共に SPring-8 での時間分解放射光小角散乱測定により自己組織構造の解析を行った.得られた均一配向リオトロピック液晶場を用いて,今後,酸化ガドリニウム平盤ナノ粒子を“その場”合成することにより,有機無機ハイブリッド積層膜を作成する予定である.この際,リン脂質部位を有する側鎖型高分子液晶を用いて積層膜を構築することで,安定な有機無機ハイブリッド積層膜を調製する技術を確立することとしている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請課題では,脂質二分子膜,特にリン脂質に着目し,リン脂質部位をサーモトロピック液晶に有機合成的に導入することで,光・電場・温度などの外部刺激に対してアクティブな組織構造変化・応答性を示す人工リン脂質,すなわち“アクティブメンブレン”を創製することを目的としている.本年度は主に,電場・光応答性メソゲン部位を有するリン脂質を合成し,十分に精製したと共に,得られた外場応答性リン脂質から得られる“アクティブメンブレン”の自己組織構造を偏光顕微鏡観察,小角X線散乱,小角ほう砂光散乱法などを駆使して解析し,今後の有機無機ハイブリッド積層膜構築に向けた重要な知見を得ることができた.一方で,合成した人工リン脂質は,希薄水溶液の状態で,ジャイアントベシクル構造を形成する事を新たに見出し,このような自己組織構造は,今後,有機無機ハイブリッドを調製する上で極めて有益な知見となった.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究遂行により見出した高温安定リオトロピックスメクチック液晶場を用いて平盤状無機ナノ粒子のその場析出を行うことで有機無機ハイブリッド多層積層膜の調製を検討する.この際,用いる無機ナノ粒子としては,X線吸収力が最大の酸化ガドリニウム (Gd2O3) に着目する.Gd2O3 は常磁性を示すことからも興味深い材料である.原料として酢酸ガドリニウム等を用い,親水性リン脂質系リオトロピック液晶場において均一な液晶相を形成させるための条件を見出した後,高温加熱することで平盤状の形態として粒子析出させることで有機無機ハイブリッド多層積層膜を得るために条件探索を行う.申請者は既に特定のサーモトロピック液晶場を用いた場合に平盤状Gd2O3 が得られることを見出しており,この知見を元に積層膜調製の実現を図る.一方で,光応答性メソゲン部位を有するリン脂質は,光照射により複雑な相転移を起こすことが見出された.形成される自己組織構造を,SPring-8 における時間分解放射光測定により解析し,今後の有機無機ハイブリッド積層膜構築のための知見を得ることとする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題の基礎は有機合成による材料合成である.主な消耗品費はその合成のための有機合成反応剤購入費や精製費に充当する.物性評価には各サンプル数グラム程度の合成が必要である.通常のラボスケールでの有機合成としては比較的スケールが大きくなるため,有機合成反応剤購入費として平成25年度は20万円程度必要となると見込まれる.また,平成25年度は液晶場におけるナノ粒子合成を主に検討するため,その原料費として20万円を計上する.また,合成用ガラス器具購入費,各種分析装置セル購入費,電子顕微鏡用消耗品購入費として10万円計上する.また,本研究では,SPring-8 での実験および英国 University of Sheffield の Goran Ungar 教授との打ち合わせ旅費として,30万円を計上する.
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