2012 Fiscal Year Research-status Report
柔軟性結晶を用いた色素増感型太陽電池用電解質の開発
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24655182
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
守谷 誠 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 助教 (70452208)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | イオン伝導体 |
Research Abstract |
本研究は結晶と液体の中間相である柔軟性結晶に着目し、新規イオン性柔軟性結晶の開発と、色素増感型太陽電池電解質としての応用を目指すものである。色素増感型太陽電池の構成要素である電解液を固体電解質に置き換えることにより漏液の防止やデバイス構造や作成プロセスの簡素化によるコスト低減が期待される。上述の目的を果たすためには、イオン伝導性に優れ、比較的高い融点を有するイオン性柔軟性結晶を開発することが求められる。しかしながら、イオン性柔軟性結晶の合成例は国内外を見ても極めて限られており、現状では明確な材料設計指針が得られていない。したがって、物性制御は試行錯誤的に手段に頼らざるを得ない状況となっている。柔軟性結晶と同じく結晶と液体の中間相である液晶が産業利用に至っているのに対して柔軟性結晶の応用は全くと言って良いほど進んでいないが、その原因の一つとして柔軟性結晶の構成要素の構造と物性の相関について知見が不足していることが挙げられる。 このような背景を鑑み、本研究ではイオン性柔軟性結晶の構成要素であるアニオンとカチオンの組み合わせについて電子的特徴と立体的特徴の両者に注目しながら種々検討することにより、その物性制御について一定の指針を得ることに成功した。本研究ではアニオンとして環状パーフルオロスルホニルアミドを用いることにより、アニオンの解離度を高めながら分子運動を制限することにより、カチオン側を官能基化しながら融点を高く保つことを可能にした。さらに単結晶X線構造解析を行い、環状スルホニルアミドアニオンの構造を世界で初めて明らかにした。ここでは、カチオン-カチオン、カチオン-アニオン間の相互作用を精査し、イオン性柔粘性結晶の融点を上昇させる要素について知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イオン性柔軟性結晶の構成要素にはカチオンとアニオンの二種類がある。色素増感型太陽電池用電解液にニトリル系有機溶媒が広く利用されていることを参考に、カチオンには官能基としてシアノ基を導入することにより電解質としての特性向上を目論んだ。さらに、アニオンには解離度を高めながら分子運動を制限することを目的に、環状パーフルオロスルホニルアミドアニオンを利用し、イオン伝導性を高く保ちながら融点低下を防ぐことを目指した。 このような考えに基づき、カチオンにはシアノ基を有するテトラアルキルアンモニウムイオンを用い、アニオンには環状パーフルオロスルホニルアミドアニオンを利用することにより、新規イオン性柔粘性結晶を得た。得られた試料が柔軟性結晶として振る舞うことは粉末X線回折と示査走査型熱量測定により確認した。また、カチオン部にシアノアルキル基を二つ導入した場合には、生成物が結晶として得られることを見出した。この試料については、単結晶X線構造解析に適した単結晶が得られ、この結晶を用いることにより環状パーフルオロスルホニルアミドアニオンの構造解析に世界で初めて成功した。生成物の熱的挙動、結晶構造解析の結果から、結晶格子中では比較的嵩高く、また分子運動が抑制された構造を有する環状パーフルオロスルホニルアミドアニオンが格子を安定化する役割を担い、このアニオンの間隙でアンモニウムカチオンが加熱条件下で分子運動を開始することにより柔軟性結晶として振る舞っていることを示唆する結果を得た。この結果は、アニオンとカチオンで静的と動的な構成要素として役割分担をさせることで柔軟性結晶の物性を制御することが可能であることを示すものであり、従来の柔軟性結晶の開発では考慮されたことの無いコンセプトである。今後、柔軟性結晶の開発と物性制御を進める上で有用な設計指針となる考え方として位置づけられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られてきた知見を基に、今後は「アニオンの構造を変化させる」、「カチオンへ導入する官能基を種々変化させる」という方針で柔軟性結晶の物性制御と機能発現を探索する。また、得られたイオン性柔軟性結晶の色素増感型太陽電池への応用を目指し、電荷移動種のドープについても試みる予定である。 現状での課題は高い融点を持つイオン性柔軟性結晶は得られているものの、室温付近でのイオン伝導特性が十分ではないことが挙げられる。そのため、構成要素となるアニオン、カチオンの選択と組み合わせを最適化することにより、融点の低下を抑制しながら、室温付近でのイオン伝導性を上昇させることにまず注力する。これまでの検討結果を考慮すると、室温付近での特性向上には、結晶から柔軟性結晶への相転移点をより低温側へシフトさせることが重要であると考えられる。カチオン側での分子運動を促進させることで相転移点を低下させ、アニオン側は格子を安定化するよう嵩高く、運動性の抑制されたものを用いるということを中心に検討していく。また、カチオン、アニオン間に働く水素結合などの相互作用が相転移点に大きな影響を与えることも見出している。そのため、カチオンへの官能基導入を行う際には、このような相互作用が働きにくいものを積極的に選択する。このような方針で研究をすすめ、得られたイオン性柔軟性結晶の中で比較的高いイオン伝導特性を示すものを用いて、電荷移動種のドープを検討していく。これまでイオニクス材料としては注目度が低かったイオン性柔軟性結晶の設計指針と機能探索、応用の可能性について基礎的な部分を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(4 results)