2012 Fiscal Year Research-status Report
半導体エピタキシャル構造の内部電場制御によるテラヘルツ電磁波発生の制御
Project/Area Number |
24656018
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
中山 正昭 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30172480)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | テラヘルツ電磁波 / コヒーレントLOフォノン / 時間分解テラヘルツ電磁波分光 / GaAs/InAlAs歪み量子井戸構造 / i-GaAs/n-GaAsエピタキシャル構造 / ピエゾ電場 / 内部電場 / コヒーレントLOフォノン-プラズモン結合モード |
Research Abstract |
(11n)面GaAs(10nm)/In0.1Al10.9As(10nm)歪み多重量子井戸構造(n=2, 3, 4, ∞)とi-GaAs(200nm)/n-GaAs(3μm)エピタキシャル構造を対象として,時間分解テラヘルツ(THz)電磁波分光法を用いて研究を行い,以下の成果を得た。 (1) (11n)面GaAs(10nm)/In0.1Al10.9GaAs(10nm)歪み多重量子井戸構造では,格子不整合歪みによってピエゾ電場が成長方向に発生する。ピエゾ電場に関する理論に基づく計算から,(112)面で121kV/cm,(113)面で61kV/cm,(114)面で35kV/cm,(001)面で0kV/cmという結果が得られた。コヒーレント縦光学(LO)フォノンからのTHz電磁波強度が,ピエゾ電場が大きくなるにしたがって顕著に増強されるということを見いだした。ピエゾ電場とTHz電磁波強度の相関関係の解析から,THz電磁波強度は,ピエゾ電場の2乗に比例することが明らかとなった。このことは,ピエゾ電場によるLOフォノンの初期分極の増大が,THz電磁波の増強の起源であることを明示している。 (2) i-GaAs(200nm)/n-GaAs(3μm)エピタキシャル構造では,表面でのフェルミ準位ピニングによって,i-GaAs層に,27kV/cmの内部電場が発生する。この内部電場によって,i-GaAs層のコヒーレントLOフォノンからのTHz電磁波が増強されることを確認した。さらに,励起強度依存性に関する系統的な実験から,高密度励起条件において,コヒーレントLOフォノン-プラズモン結合(LOPC)モードによるTHz電磁波が発生することを見いだした。また,LOPCモードの寿命は,0.3psと極めて短く,その消滅後に,純粋なコヒーレントLOフォノンによるTHz電磁波信号が継続することを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(研究の目的)半導体エピタキシャル構造(量子井戸構造を含む)特有の内部電場に着目し、フェムト秒パルスレーザー励起によるテラヘルツ(THz)電磁波発生を制御する新奇な方法論を確立することを目的としている。具体的には、従来のTHz電磁波発生では全く考慮されてこなかったエピタキシャル構造の設計の観点から、内部電場(表面電場、格子歪みによるピエゾ電場)の構造的制御を行い、その内部電場によって表面近傍での光励起キャリアのドリフト運動を加速し、また、縦光学(LO)フォン分極の増大を生じせしめて、光励起瞬間電流(サージ電流)とコヒーレントLOフォノンに起因するTHz電磁波発生の制御を行う。即ち、エピタキシャル構造を設計することによってTHz電磁波発生を制御するという新たなパラダイムを開拓する。 (達成度)初年度の平成24年度の研究成果の骨子は,次の通りである。(1) (11n)面GaAs(10nm)/In0.1Al10.9As(10nm)歪み多重量子井戸構造におけるピエゾ電場(面方位によって電場強度が制御できる)によって,GaAs層のLOフォノン分極が増大し,コヒーレントLOフォノンからのTHz電磁波が顕著に増強されることを明らかにした。(2) i-GaAs(200nm)/n-GaAs(3μm)エピタキシャル構造において,内部電場によるコヒーレントLOフォノンからのTHz電磁波の増強,及び,サージ電流の電子のプラズモンとコヒーレントLOフォノンとの結合モードによるTHz電磁波が発生することを明らかにした。 上記の成果は,研究目的に適合し,かつ,その中核的なものである。特に,歪み多重量子井戸構造に関する成果(1)は,内部電場(この場合はピエゾ電場)の構造制御によるTHz電磁波発生の制御を正に実証するものである。したがって,研究は順調に進展していると自己評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は最終年度(2年目)に相当し,以下の研究を行い,研究目的を達成する。尚,テラヘルツ(THz)電磁波の測定は,光ゲート法を用いた時間分解THz電磁波分光によって行う。 (1) GaAsダイオード構造におけるコヒーレント縦光学(LO)フォノンからのTHz電磁波発生のバイアス電圧制御:エピタキシャル成長したGaAsのp-i-nダイオード構造(p層50nm, i層500nm,n層3μm)を試料として,コヒーレントLOフォノンからのTHz電磁波の逆方向バイアス電圧依存性を系統的に測定する。この目的は,逆方向バイアス電圧がp-i-nダイオード構造のi層に内部電場を誘起し,その内部電場によってLOフォノン分極が増大してTHz電磁波が増強されることを実証することである。この実証ができれば,バイアス電圧によってコヒーレントLOフォノンからのTHz電磁波強度を制御するという新規なTHz電磁波デバイスの提案となる。 (2) i-GaAs/n-GaAsエピタキシャル構造におけるコヒーレントLOフォノンからのTHz電磁波の増強機構の解明:昨年度の研究において,200nmのi-GaAs層厚の試料で,バルク結晶よりも格段に強い強いTHz電磁波が発生することを確認した。今年度は,i-GaAs層厚を系統的に変化させた試料群を用いて,表面フェルミ準位ピニングによるi-GaAs層の内部電場を制御し,内部電場とコヒーレントLOフォノンからのTHz電磁波強度の相関関係を実験的に明らかし,その解析から増強機構を解明する。尚,i-GaAs層の層厚が200nm, 500nm, 800nm, 1200nmの試料において,その内部電場が,28kV/cm,12kV/cm,8kV/cm,6kV/cmとなることを光変調反射分光法によって観測されるFranz-Keldysh振動のスペクトル解析から既に確認している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
|